一 検察官の判例違反をいう上告趣意が実質事実誤認、単なる法令違反の主張として不適法とされた事例 二 被告人の自白及び客観的証拠の信憑性について詳細な職権判断を示した事例
判旨
被告人の自白が詳細であっても、客観的証拠と矛盾し、供述に変転・動揺が見られる場合には、その信用性を認めることはできない。間接事実のみでは有罪の心証を得るに足りない場合、「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則に従い、無罪とすべきである。
問題の所在(論点)
直接証拠が自白のみである本件において、当該自白が客観的事実と矛盾する場合、および間接証拠の証明力が不十分な場合に、有罪認定が可能か(刑事訴訟法318条、319条1項)。
規範
有罪の認定には、合理的疑いを超えた高度の蓋然性が必要である。自白の信用性を判断するにあたっては、自白の内容が客観的事実と符合するか(客観的妥当性)、供述の過程に一貫性があるか(供述の安定性)、動機や経過に不自然さがないか(主観的信憑性)を総合的に検討すべきである。
重要事実
被告人が銀行支店に侵入し、金庫のボルトを外したところを銀行員に発見され、包帯を巻いた手製刃物(ヤッパ)で刺した上、電気掃除機のコードで絞殺したとされる住居侵入・強盗殺人事件。被告人は捜査段階で詳細に自白したが、公判では否認に転じた。現場の靴跡、凶器の入手経路、犯行後の言動、アリバイの成否が争点となった。
あてはめ
まず、自白については、①凶器とされたヤッパやプライヤーが海中捜索等でも発見されていないこと、②犯行状況について、対格差のない被害者の腕を掴み合いながら左手でコードを取り頸部に巻き付けるのは極めて困難であり、死体の状況(コードの結び目や血痕の付着等)とも矛盾すること、③供述が軍手からビニール手袋へ変転するなど安定性を欠くことから、信用性は否定される。次に、靴跡の鑑定は「よく類似する」に留まり断定できないこと、肉親への告白等の間接事実も、被告人の性格や疲労困憊の状態から多義的な解釈が可能であり、被告人が真犯人であるとの確信を得るには至らない。
結論
被告人の自白の信用性には重大な疑義があり、その他の証拠を総合しても有罪の心証を得ることはできないため、無罪を言い渡した原判決を維持し、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の信用性を争う際の典型的な検討手法(客観的証拠との不一致、供述の変転、秘密の暴露の不存在)を示す。特に「秘密の暴露」が既に警察の知得していた事実であった場合の弾劾手法として重要である。
事件番号: 昭和25(れ)1867 / 裁判年月日: 昭和26年3月9日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が被告人であることの証拠は被告人の自白だけであつても、被害者の始末書に窃盗被害の日時及び被害物件等について被告人の自白にかかる事実を裏書するに足りる記載がある以上、右自白と始末書の記載を綜合して被告人に窃盗の罪を認めても違憲違法ではない。