一 記録を精査しても、被告人が警察署で拷問されて自白したということは、被告人が原審公判でそのように述べているだけで、その他には被告人の供述を支持する證跡は一つもなく、かえつて原審が拷問の有無について調査した證人A(事件取調の巡査)同B(司法主任係の警察官)の各訊問調書によると拷問のなかつたことを認めうるのであるから、被告人に對する司法警察官の聽取書の内容が拷問による自白であるという事實はこれを認めることが出來ない。 二 有罪判決の證據説明としては、判示事實を認めた證據を舉示すれば、これと矛盾する他の證據を排斥したことはおのずから明かなので、その取捨排斥の理由まで明示する必要はない。 三 判決に判斷を示さなければならないのは、刑事訴訟法第三六〇條のように、法律で特にその必要を定めた場合に限られる。
一 拷問による自白の主張と上告審の判斷 二 證據の取捨排斥の理由明示の要否 三 判決に判斷を示さねばならぬ事項
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴法337條,刑訴法360條1項,刑訴法410條19號,刑訴法360條
判旨
有罪判決の証拠説明においては、判示事実を認めた証拠を挙示すれば、それと矛盾する証拠を排斥したことは自明であり、証拠の取捨選択の理由を個別に明示する必要はない。また、自白以外の証拠をも総合して犯罪事実を認定している場合には、自白が唯一の証拠であることによる違憲・違法の問題は生じない。
問題の所在(論点)
1. 有罪判決において、判示事実と矛盾する証拠を排斥する理由を明示する必要があるか(理由不備・理由齟齬の有無)。 2. 自白が「唯一の証拠」にあたるか否かの判断基準。
規範
1. 有罪判決における証拠の取捨選択:有罪の判決において犯罪の事実を認定したときは、その事実を認めた証拠を挙示すれば足りる。これと矛盾する証拠を排斥した理由は、特段の定めのない限り、判決書に明示することを要しない。 2. 自白の証明力:被告人の自白が唯一の証拠である場合に有罪とされない(憲法38条3項、刑訴応急措置法10条)のは、自白以外に何ら実質的な証拠がない場合を指す。他の証拠を総合して事実を認定していれば、同条項には抵触しない。
事件番号: 昭和23(れ)708 / 裁判年月日: 昭和23年12月8日 / 結論: 棄却
證人若しくは被害者の供述と被告人の供述との間に、又は各被告人の供述相互の間に矛盾又は不合理の點があるからと云つて、これがため直ちに本件取調の上に、不自然又は無理があつたと斷ずることのできないのは多言を要しない。
重要事実
強盗被告事件において、被告人は捜査段階で自白したが、公判では「警察で拷問(ヤキを入れられた)を受けて嘘を言った」と主張して否認に転じた。一審・二審は有罪としたが、被告人は、①警察官による拷問に基づく自白であること、②自白以外に証拠がないこと、③アリバイを主張する証人等の有利な証拠を排斥した理由が示されていないことが憲法36条、38条、及び当時の刑訴法等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 理由不備について:原判決は、判示事実を認めた証拠を適法に挙示しており、これにより矛盾する他の証拠を排斥したことは明らかである。したがって、取捨選択の理由を個別に明示しなくても理由不備や齟齬の違法はない。 2. 自白の任意性・証明力について:記録によれば、取調官への尋問等から拷問の事実は認められない。また、原審は自白以外にも、犯行の模様や被害の顛末を詳記した他の証拠を総合して事実を認定しており、自白が唯一の証拠であるとはいえない。
結論
本件判決に憲法違反や理由不備の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
判決における「証拠の挙示」の程度を示す重要判例。実務上、全ての証拠について判断を示す必要はなく、有罪の認定に用いた証拠を示せば、反対証拠の排斥理由は黙示的で足りる(自由心証主義の帰結)。また、自白の補強証拠についても、総合評価による認定を肯定する初期の判断枠組みを示している。
事件番号: 昭和27(あ)4978 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述調書が強制や誘導に基づくことを認める証拠がない場合、弁護人の証拠同意や他の補強証拠の存在を踏まえ、当該自白を証拠として事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:被告人は司法警察員に対する第4回ないし第7回供述調書において自白をしたが、上告審において、当該自白は警察員の強制と誘…
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…