證人若しくは被害者の供述と被告人の供述との間に、又は各被告人の供述相互の間に矛盾又は不合理の點があるからと云つて、これがため直ちに本件取調の上に、不自然又は無理があつたと斷ずることのできないのは多言を要しない。
證人若しくは被害者の供述と被告人の供述との間に矛盾又は不合理の點がある場合と取調の正否
旧刑訴法336條,同337條
判旨
被告人の供述が他者の供述と矛盾する点があることや、暴行を受けたと主張する証言があることのみをもって、直ちに取調べが不当で自白が強制されたものとは断定できない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法における自白の任意性(任意性に疑いのある自白の証拠能力)に関し、供述間の矛盾や暴行の申立てがある場合に、直ちに自白が強制によるものと断定されるか。
規範
自白の任意性については、供述の矛盾や不合理といった形式的な側面のみならず、取調べ担当者の供述や公判調書の記載等の客観的な証拠を総合的に考慮し、強制、拷問又は脅迫等による不当な干渉の有無を実質的に判断すべきである。
重要事実
被告人等は、警察における自白は暴行(ヤキを入れられた)の結果であると主張した。また、原審証人Aは、被告人等が鎌倉警察署で暴行されたと聞き及び、県刑事課に詰問した旨を証言した。さらに、証人若しくは被害者の供述と被告人の供述との間に、あるいは被告人相互の供述間に矛盾や不合理な点が存在していた。
あてはめ
証人や被害者の供述と被告人の供述に矛盾があるとしても、その事実のみで取調べが不自然・不当であったとはいえない。本件では、取調べを担当した司法警察官等の各公判調書における証言内容に照らせば、被告人の供述が強制や拷問によるものとは到底認められない。したがって、自白の任意性を否定すべき事情は存在しないと判断される。
結論
被告人の自白に任意性の欠如は認められず、証拠能力を認めた原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
自白の任意性に関する初期の最高裁判断であり、供述矛盾等の間接的事実のみで直ちに任意性を否定しない実務の基本的な姿勢を示している。答案上は、任意性を争う事実(暴行の訴え等)がある場合でも、取調官の証言等の反証により任意性が維持されるプロセスを記述する際の参考となる。
事件番号: 昭和26(あ)5086 / 裁判年月日: 昭和27年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白の任意性について、記録上、任意にされたものでないことを疑わしめるに足りる形跡が認められない場合には、証拠能力が肯定される。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、事実認定の証拠に採用された被告人の供述(自白)について、任意性に疑いがある旨を主張して上告した。しかし、記録を精査しても、…
事件番号: 昭和58(あ)626 / 裁判年月日: 昭和59年11月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官による脅迫や強制等の事実が認められない限り、供述調書の任意性は否定されず、その証拠能力を認めた判断は正当である。 第1 事案の概要:被告人は強盗殺人および放火の罪で起訴された。弁護側は、被告人が警察官から脅迫や強制を受けたことにより自白がなされたものであり、当該供述調書には任意性がない(憲法…