一 憲法第三八條第二項の「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」には、自白と不當に長い抑留又は拘禁との間に因果關係の存しないことが明かに認められる場合の自白を含まない。 二 刑訴應急措置法第一二條は、證人その他の者の供述を録取した書類又はこれに代るべき書類は、被告人の請求あるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與へなければこれを證據とすることが出來ない旨を定めているが、その趣旨は、被告人の請求があることを前提とするに過ぎないものであつて必ずしも常に裁判所が積極的に被告人に對してかかる書類の供述者又は作成者を證人として訊問することを得る旨を告げることを義務として要請するものと解すべき理由は存しないのである。
一 憲法第三八條第二項の「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白の意義(拘禁と自白との間の因果關係)」 二 刑訴應急措置法第一二條第一項の法意と裁判所の告知義務
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴應急措置法12條1項
判旨
憲法38条2項が不当に長い拘禁後の自白を禁ずる趣旨は、自白と拘禁との間の因果関係を考慮する点にあり、原則として因果関係が不明な場合も証拠能力を否定すべきであるが、不当な拘禁が生じる前の自白を維持している場合は、特別の事情がない限り証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
憲法38条2項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」の意義、及び先行する自白を維持した後の自白と不当な拘禁との因果関係の判断基準が問題となる。
規範
憲法38条2項は、自白と不当に長い抑留又は拘禁との間の因果関係を考慮すべきとの趣旨である。したがって、①自白の原因が不当な拘禁等によることが明らかな場合のみならず、②その因果関係が不明である場合も、被告人の人権保護の観点から証拠能力を否定すべきである。もっとも、③自白と不当な拘禁等との間に因果関係がないことが明らかな場合(例えば、不当な拘禁が始まる前の第1審での自白を、後に不当な拘禁が生じた状態の第2審で繰り返しているに過ぎない場合等)は、特別の事情がない限り、当該自白の証拠能力は認められる。
重要事実
被告人は昭和21年11月に勾留され、昭和22年1月に第1審で自白をした。その後、共犯者の病気や審理の延期などにより裁判が長期化し、同年6月の第2審においても同様の自白を繰り返した。弁護人は、第2審の自白は「不当に長く拘禁された後の自白」に該当し、憲法38条2項に反して証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、第2審の自白は勾留から約7ヶ月が経過しており、審理の遅延理由(共犯者の事情等)を考慮すれば必ずしも不当な拘禁とはいえないが、仮にこれを不当な拘禁と評価し得たとしても、被告人は不当な拘禁状態が生じる前の第1審時点ですでに同様の自白を行っている。そうであれば、第2審の自白は第1審の自白を繰り返しているに過ぎず、不当な拘禁との間に因果関係がないことが明らかである。したがって、特別の事情がない限り、憲法38条2項による証拠能力の排除は受けない。
結論
第2審の自白は、不当な拘禁と因果関係がないことが明らかであるため、憲法38条2項には該当せず、証拠能力が認められる。上告棄却。
実務上の射程
自白の任意性(因果関係)に関する立証責任の所在を示唆しつつ、先行自白が存在する場合の因果関係遮断の論理を提供するものである。答案上は、拘禁期間の長さだけでなく、自白の変遷や先行自白との同一性を指摘し、不当な拘禁との因果関係を否定する際の有力な考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和28(れ)41 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘束された後の自白であっても、拘束前の自白内容を繰り返したにすぎないなど、拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和21年12月23日に勾留状が発付される前の段階で、検事の聴取に対し自白を行っていた。その後、被告人は相当…
事件番号: 昭和24(れ)401 / 裁判年月日: 昭和24年5月7日 / 結論: 棄却
一 しかし被告人は同年七月七日檢事に對して本件犯行を自白し次いで同月二九日第一審公判廷においても自白しているのであつて、原審公判廷の自白も従前の自白を繰返したものに過ぎないのであるから右自白と拘禁との間には因果関係のないことが明かである。然らば原審が右自白を證據としたからといつて憲法第三八條第二項刑訴應急措置法第二〇條…
事件番号: 昭和41(あ)574 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の抑留・拘禁が不当に長いものではなく、自白の任意性を疑うべき証跡が認められない場合には、憲法38条に違反する不当な自白とはいえず、その証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人が自白をした事案において、弁護人が憲法38条を根拠に、被告人の抑留および拘禁が不当に長いものであるとして、そ…
事件番号: 昭和24(れ)349 / 裁判年月日: 昭和28年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」とは、拘禁と自白との間に因果関係があることを要し、因果関係がないことが明らかな自白は含まれない。また、病状があっても審理に耐え得ると認められる限り、公判手続を停止しないことは適法である。 第1 事案の概要:被告人は強盗容疑で逮捕・勾留され、約11…