判旨
憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」とは、拘禁と自白との間に因果関係があることを要し、因果関係がないことが明らかな自白は含まれない。また、病状があっても審理に耐え得ると認められる限り、公判手続を停止しないことは適法である。
問題の所在(論点)
約11ヶ月におよぶ拘禁下での自白が「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」(憲法38条2項)として証拠能力を否定されるか。また、病状を抱える被告人の公判手続を停止しなかったことが旧刑訴法に違反するか。
規範
憲法38条2項の「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」を証拠とできないとする規定は、抑留・拘禁と自白との間に因果関係がないことが明らかな場合には適用されない。また、身体の故障による公判手続の停止(旧刑事訴訟法352条)は、被告人が病気等により到底審理に耐えられない重症である場合に限って義務付けられる。
重要事実
被告人は強盗容疑で逮捕・勾留され、約11ヶ月間にわたり拘禁された。被告人は逮捕直後から一貫して自白しており、第1審判決後、控訴審の公判期日においても自白を維持した。被告人は当時、肺浸潤および脚気を患っており、控訴審で保釈を請求したが、医師の診断に基づき却下され拘禁が継続された。被告人は公判廷で自白の理由について、身体が悪いため寛大な処分を受けたいからである旨を陳述していた。
あてはめ
本件において、被告人は拘禁後わずか1日で自白を開始し、その後も一貫して自白を維持しており、11ヶ月の拘禁が自白を誘発したという因果関係は認められない。また、被告人は公判廷で裁判長の尋問に対し詳細に回答しており、健康状態について述べてはいるものの、自ら審理の停止を求めてはおらず、弁護人も異議なく最終弁論を行っている。これらの状況から、被告人は審理に耐えられない重症や心神喪失の状態にあったとは認められず、手続停止の要件を欠く。
結論
被告人の自白は不当な長期拘禁によるものとはいえず、証拠能力は認められる。また、公判手続を停止せずに審理を進めたことも適法である。
事件番号: 昭和24(れ)401 / 裁判年月日: 昭和24年5月7日 / 結論: 棄却
一 しかし被告人は同年七月七日檢事に對して本件犯行を自白し次いで同月二九日第一審公判廷においても自白しているのであつて、原審公判廷の自白も従前の自白を繰返したものに過ぎないのであるから右自白と拘禁との間には因果関係のないことが明かである。然らば原審が右自白を證據としたからといつて憲法第三八條第二項刑訴應急措置法第二〇條…
実務上の射程
自白の証拠能力に関する憲法38条2項の解釈として、単なる期間の長さだけでなく、拘禁と自白との間の因果関係を重視する。実務上は、逮捕直後からの供述の一貫性や被告人の公判廷での態度が、因果関係を否定する重要な考慮要素となる。
事件番号: 昭和22(れ)271 / 裁判年月日: 昭和23年6月30日 / 結論: 棄却
一 憲法第三八條第二項の「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」には、自白と不當に長い抑留又は拘禁との間に因果關係の存しないことが明かに認められる場合の自白を含まない。 二 刑訴應急措置法第一二條は、證人その他の者の供述を録取した書類又はこれに代るべき書類は、被告人の請求あるときは、その供述者又は作成者を公判期日に…
事件番号: 昭和28(れ)41 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘束された後の自白であっても、拘束前の自白内容を繰り返したにすぎないなど、拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和21年12月23日に勾留状が発付される前の段階で、検事の聴取に対し自白を行っていた。その後、被告人は相当…