一 しかし被告人は同年七月七日檢事に對して本件犯行を自白し次いで同月二九日第一審公判廷においても自白しているのであつて、原審公判廷の自白も従前の自白を繰返したものに過ぎないのであるから右自白と拘禁との間には因果関係のないことが明かである。然らば原審が右自白を證據としたからといつて憲法第三八條第二項刑訴應急措置法第二〇條第二項に違反するものではない。(昭和二二年(れ)第二七一號同二三年六月三〇日大法廷判決) 二 しかし憲法第三七條第二項前段は裁判所が書類の供述者又は作成者を公判期日に喚問し現實にこれを審問する機會を被告人に與えなければその書類を證據とすることが絶對にできないとする趣旨でないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九日大法廷判決)
一 拘禁と因果関係のない自白と憲法第三八條第二項 二 憲法第三七條第二項前段の注意
憲法38條2項,憲法37條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白であっても、それが拘禁前の自白を繰り返したものであり、拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。また、被告人が喚問を請求しない書面を証拠とすることは、憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 5ヶ月有余という不当に長い拘禁後の自白に証拠能力が認められるか(自白排除法則と因果関係の要否)。2. 被告人が喚問を請求しなかった書面を証拠とすることは、憲法37条2項(証人審問権)に違反するか。
規範
憲法38条2項及び刑訴法上の自白排除法則の趣旨に鑑み、自白が不当に長い拘禁の後にされたものであっても、当該自白と拘禁との間に因果関係が認められない場合には、その証拠能力は否定されない。また、憲法37条2項前段は、裁判所が供述者を現実に喚問し審問する機会を被告人に与えなければ、書類を証拠とすることが絶対にできないとする趣旨ではない。
重要事実
被告人は昭和23年7月3日に逮捕された後、同年7月7日に検察官に対し、同月29日には第一審公判廷にて自白した。その後、5ヶ月有余の拘禁を経た同年11月11日及び12月21日の原審公判廷においても、従前の自白を繰り返す形で本件犯行を自白した。原審はこの自白を証拠として採用した。また、原審は被告人からの喚問請求がなかった被害者等の聴取書を証拠として採用していた。
あてはめ
1. 本件自白は逮捕から5ヶ月有余の拘禁後にされたものであるが、被告人は逮捕直後や第一審公判廷において既に自白を行っている。原審での自白は、これら拘禁が長期化する前の自白を単に繰り返したものに過ぎない。したがって、右自白と拘禁との間には因果関係がないと認められる。2. 刑訴応急措置法12条1項に基づき、被告人の請求がない場合に喚問を省略して書類を証拠とすることは、憲法が保障する防御権の範疇として許容される。
結論
1. 自白と拘禁との間に因果関係がないため、証拠能力を認めた原判決に憲法38条2項違反はない。2. 被告人から請求のない書面の証拠採用は、憲法37条2項に違反しない。
実務上の射程
自白排除法則における「不当に長い拘禁」の判断において、因果関係の存否が決定的な要素となることを示した。実務上、拘禁期間の長さという形式的側面だけでなく、先行する自白の有無や経緯といった実質的関連性を検討する際の論拠となる。
事件番号: 昭和24(れ)349 / 裁判年月日: 昭和28年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」とは、拘禁と自白との間に因果関係があることを要し、因果関係がないことが明らかな自白は含まれない。また、病状があっても審理に耐え得ると認められる限り、公判手続を停止しないことは適法である。 第1 事案の概要:被告人は強盗容疑で逮捕・勾留され、約11…