記録を調べてみると被告人A、原審相被告人B、同Cは昭和二三年七月二九日逮捕され、原審相被告人D同Eは同月三〇日に逮捕され、原審第一回公判期日は同年一一月一六日であつて被告人等がその間即ち一一一日若しくは一一〇日間拘禁されていたことは明かであるが、被告人等は同年七月三一日には檢事に對して本件犯行を自供し次いで同年八月一八日の第一審公判期日にも自供しているのであつて、原審公判廷の供述も従前の供述を繰返したものに外ならない。従つて被告人等の原審公判廷の自白と右拘禁との間には因果関係のないことは明かであるから原審が右自白を證據としたからといつて憲法第三八條第二項刑訴應急措置法第一〇條第二項に違反するものではない。(昭和二二年(れ)第二七一號同二三年六月三〇日大法廷判決)
一一一日間の拘禁と自白との間に因果関係のない場合と憲法第三八條第二項
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長く抑留又は拘禁された後の自白であっても、当該拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合には、憲法38条2項及び刑訴法319条1項による証拠能力の否定はなされない。
問題の所在(論点)
不当に長い拘禁(110日間)がなされた場合において、その拘禁中に、あるいはその拘禁を経てなされた自白が、憲法38条2項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として一律に証拠能力を否定されるか。特に、自白と拘禁との間の因果関係の要否が問題となる。
規範
不当に長い拘禁後の自白を排除する趣旨は、自由な意思に基づかない自白がなされる蓋然性が高いためである。したがって、証拠能力を否定するためには、不当な拘禁と自白との間に「因果関係」があることを要する。従前の自供を公判廷で繰り返したものにすぎない場合など、拘禁の影響が遮断されているといえる場合には、当該自白の証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人らは昭和23年7月29日または30日に逮捕され、同年11月16日の第一回公判期日まで約110日間にわたり拘禁されていた。被告人は、逮捕直後の7月31日に検事に対して自供し、さらに8月18日の第一審公判期日においても自供していた。その後の原審公判廷における自白も、これら従前の自供を繰り返した内容であった。また、被告人は病気であったと主張したが、診断書は公判の約2ヶ月後のものであり、自白当時に瀕死の状態であった事実は認められなかった。
あてはめ
本件では、被告人らは確かに110日間という長期間拘禁されていた。しかし、被告人らは逮捕から数日後の極めて早い段階(7月31日)で既に検事に対して自供を行っている。また、その後の第一審公判でも同様の自供を維持している。原審公判廷での自白は、これら初期の自供を継続したものにすぎず、110日間にわたる長期拘禁によって心理的強制を受けてなされたものとは認められない。したがって、拘禁と自白との間に因果関係は存在しないといえる。また、病気による衰弱についても、自白当時の身体的自由を奪うほどの状態(瀕死の状態)であったとは認められない。
結論
被告人の自白と長期拘禁との間には因果関係がないため、証拠能力は否定されず、憲法38条2項等に違反しない。
実務上の射程
憲法38条2項及び刑訴法319条1項の「不当に長い拘禁後の自白」の解釈において、因果関係を必要とする点に射程が及ぶ。実務上は、拘禁期間の長さだけでなく、自白のタイミング(拘禁開始直後の自白の有無)や内容の一貫性を検討し、拘禁による心理的圧迫が自白を誘発したといえるかを論じる必要がある。
事件番号: 昭和22(れ)90 / 裁判年月日: 昭和22年11月19日 / 結論: 棄却
被告人に對する勾留が、たとえ所論の如き期間(百六十日)に亘って爲されたとしても、本件事案の性質其の他諸般の事情等に照らして判断してみても、右の勾留をもつて不當に長きものと認めることができないので、右勾留期間内である原審第一回公判期日において爲された被告人の自由を断罪の資料に供することができないと論ずるのは當らない。
事件番号: 昭和24(れ)401 / 裁判年月日: 昭和24年5月7日 / 結論: 棄却
一 しかし被告人は同年七月七日檢事に對して本件犯行を自白し次いで同月二九日第一審公判廷においても自白しているのであつて、原審公判廷の自白も従前の自白を繰返したものに過ぎないのであるから右自白と拘禁との間には因果関係のないことが明かである。然らば原審が右自白を證據としたからといつて憲法第三八條第二項刑訴應急措置法第二〇條…