被告人に對する勾留が、たとえ所論の如き期間(百六十日)に亘って爲されたとしても、本件事案の性質其の他諸般の事情等に照らして判断してみても、右の勾留をもつて不當に長きものと認めることができないので、右勾留期間内である原審第一回公判期日において爲された被告人の自由を断罪の資料に供することができないと論ずるのは當らない。
刑訴應急措置法第一〇條第二項に於ける「不當に長い勾留」
刑訴應急措置法10條2項,憲法38條2項
判旨
「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」の証拠能力(憲法38条2項、刑訴法319条1項)における不当性の判断は、単なる時間の経過のみならず、事案の性質やその他諸般の事情を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
勾留開始から第1回公判期日まで約5か月を経過している場合、その後の自白は「不当に長く拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。また、その「不当性」はどのように判断されるべきか。
規範
「不当に長い拘禁」に該当するか否かは、単に勾留期間の長短という形式的な基準のみによって決せられるものではない。当該事案の性質、複雑性、捜査の進捗状況、その他諸般の事情を総合的に考慮し、実質的な観点から判断すべきである。これに該当しない限り、その後の自白の証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人は昭和22年2月19日に勾留状の執行を受け収容された。第1審の第1回公判期日は、勾留開始から約5か月以上が経過した同年7月31日であった。被告人はこの公判期日において自白をしたが、弁護人はこの勾留期間が「不当に長い」ものであり、憲法および刑事訴訟法応急措置法(当時)に照らし、当該自白には証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は約半年間にわたり勾留されていた事実は認められる。しかし、本件の事案の性質やその他の諸般の事情を照らし合わせて検討すると、この程度の期間の勾留をもって直ちに「不当に長いもの」と断定することはできない。したがって、その期間内に行われた公判期日における被告人の自白を証拠として採用することは、憲法や刑事訴訟法上の自白排除法則に違反しない。
結論
被告人の勾留は不当に長いものとは認められず、その後の公判における自白を証拠とした原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
自白排除法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)における「不当に長い拘禁」の意義を明確化した。答案上は、勾留期間が長期に及ぶ事案において、期間の長さだけでなく「事案の性質」や「諸般の事情」を考慮して不当性を否定する際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和49(あ)248 / 裁判年月日: 昭和50年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の勾留期間が不当に長いとは認められない場合には、憲法38条2項に基づく自白の証拠能力の否定や、その他の憲法違反の問題は生じない。 第1 事案の概要:被告人は勾留されていたが、その期間について被告人側から不当に長いものであるとの主張がなされた。しかし、第一審判決が掲げる証拠や記録に照らしても、…
事件番号: 昭和28(れ)41 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘束された後の自白であっても、拘束前の自白内容を繰り返したにすぎないなど、拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和21年12月23日に勾留状が発付される前の段階で、検事の聴取に対し自白を行っていた。その後、被告人は相当…