一 かりに原判決が證據とした原審公判における被告人の自白前の拘禁が不當に長いものであるとしても、被告人は本件犯行については、拘禁後四〇餘日を經た豫審の取調べにおいて、すでに自白をしているのであり、更にその後七〇餘日を經た第一審公判においても同樣自白をしているのであつて、この程度の期間の拘禁は、前述の事情等からみて不當に長い拘禁ということのできないのは勿論であり、要するに、被告人は當初から本件については、豫審第一審公判、原審公判を通じて終始同樣の自白をしているのであつて、原審が證據とした原審公判における自白も長い拘禁がもとになつて、若しくはその拘禁に影響せられて自白をするに至つたものとは、とうてい考へられない。 二 たとい不當に長い拘禁後の自白であつても、その拘禁が、その自白に對して、因果の關係をもたぬこと明瞭である場合は、刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる「不當に長く拘禁された後の自白」にあたらないものと解すべきことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年六月二三日言渡、昭和二二年(れ)二七一號)
一 刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる「不當に長く拘禁された後の自白」に該らぬ場合 二 刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる「不當に長く拘禁された後の自白」(拘禁と自白との間の因果關係)
刑訴應急措置法10條2項,憲法38條2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白であっても、その拘禁と自白との間に因果関係がないことが明瞭である場合には、証拠能力は否定されない。被告人が勾留初期から一貫して自白しており、長期拘禁が自白の誘因となったと認められない場合はこれに該当する。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法(当時の応急措置法10条2項)における「不当に長く拘禁された後の自白」の意義、および長期拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合の証拠能力の成否。
規範
「不当に長く拘禁された後の自白」として証拠能力が否定されるためには、当該拘禁が自白に対して因果関係を有していることを要する。したがって、たとえ拘禁期間が不当に長いといえる場合であっても、その拘禁が自白に対して影響を及ぼしていないことが明瞭であるときは、なお証拠能力を認めることができる。
重要事実
被告人は、強盗等の容疑で勾引状の執行を受けてから原審公判まで約1年3か月という長期間拘禁された。被告人はこの間、拘禁後40余日を経た予審段階ですでに犯行を自白し、さらにその後70余日を経た第一審公判、およびその後の原審公判においても、終始同様の自白を維持していた。弁護人は、この自白が不当に長い拘禁後の自白にあたり、証拠能力を欠くと主張して上告した。
あてはめ
本件では、被告人は拘禁後比較的早期(40余日)の予審段階で自白を開始しており、その時点での拘禁期間は、共同被告人多数かつ犯罪態様が複雑な事案に鑑みれば不当に長いとはいえない。その後も一貫して自白が維持されていることから、原審公判における自白が、後の長期にわたる拘禁がもととなったり、その拘禁に影響されたりしてなされたものとは考えられない。よって、本件の自白は長期拘禁と因果関係を持たないことが明瞭である。
結論
本件自白は「不当に長く拘禁された後の自白」に該当せず、証拠能力が認められる。上告棄却。
実務上の射程
現行刑訴法319条1項の「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」の解釈にそのまま妥当する。実務上、拘禁の長さという客観的状況だけでなく、自白のタイミングや一貫性から「拘禁による心理的圧迫が自白を誘発したか」という因果関係を厳格に検討すべきとする射程を持つ。
事件番号: 昭和24(れ)276 / 裁判年月日: 昭和24年6月28日 / 結論: 棄却
一 拘禁と自白との間に因果關係のないことが明らかな場合の自白は、憲法第三八條第二項並びに刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる不當に長く拘禁された後の自白に當らないことは、當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三〇號同二三年二月六日大法廷判決、同二二年(れ)第二七一號同二三年六月二三日大法廷判決) 二 …