一 當該公判廷における自白は刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる自白に包含せられないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年七月二九日言渡、同年(れ)第一六八號大法廷事件判決) 二 被告人は警察および檢察廳の取調べ以來本件犯行を自白し、つづいて被告人の勾留後約五〇日で開かれた第一審公判においても、同様自白をしている。しかして右期間の勾留は本件の罪状その他諸般の事情からみて、不當に長い拘禁とはいえない。 三 たとえ長期拘禁後の自白であつても、その拘禁と自白との間に因果關係のないことのあきらかな場合は、刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる不當に長い拘禁後の自白にあたらぬとすることは、當裁判所の判例である。(昭和二三年六月三〇日言渡同二二年(れ)第二七一號事件大法廷判決) 四 いかなる限度において證人の訊問を行うかは、事實審たる原裁判所の自由裁量により決すべきところである。 五 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは組織構成等において偏頗のおそれなき裁判所の裁判のいふ意味である。
一 公判廷における自白と刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる自白 二 警察及び檢察廳において犯行を自白した被告人が勾留後約五〇日を經た第一審公判において同様自白している場合と刑訴應急措置法第一〇條第二項 三 拘禁と自白との間に因果關係なき場合と刑訴應急措置法第一〇條第二項 四 證人訊問の限度と裁判所の自由裁量權 五 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」
刑訴應急措置法10條3項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴法337條,刑訴法334條1項,憲法37條1項
判旨
「不当に長い拘禁」後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の証拠能力は、拘禁と自白との間に因果関係がある場合に否定される。長期拘禁後の自白であっても、拘禁前に自白があり公判でそれを維持しているなど、因果関係がないことが明らかな場合は証拠能力を有する。
問題の所在(論点)
憲法38条2項および刑事訴訟応急措置法10条2項(現行刑訴法319条1項)にいう「不当に長い拘禁」後の自白として証拠能力が否定されるための要件、特に拘禁と自白の因果関係の要否が問題となる。
規範
「不当に長い拘禁」後の自白に証拠能力が認められないのは、長期間の不当な身体拘束による心理的圧迫が虚偽の自白を誘発するおそれがあるからである。したがって、たとえ拘禁が長期にわたる場合であっても、当該拘禁と自白との間に因果関係が認められないことが明らかな場合には、証拠能力を否定すべき理由がなく、同規定の適用はないものと解する。
重要事実
被告人は窃盗罪等の容疑で逮捕・勾留され、原審判決時点では6ヶ月余の長期拘禁状態にあった。被告人は警察および検察の取調べ当初から犯行を自白しており、勾留後約50日で開かれた第1審公判においても同様の自白を行っていた。原審判決は、この第1審での自白を繰り返した原審公判廷での自白を唯一の証拠として有罪を認定した。これに対し弁護人は、当該自白は不当な長期拘禁後のものであるから証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は長期拘禁に至る前の警察・検察段階から一貫して自白しており、さらに拘禁後50日の比較的早期に行われた第1審公判でも自白を維持している。本件の罪状や諸般の事情に照らせば、第1審時点での拘禁は不当に長いとはいえない。原審での自白は、この適法な段階での自白を単に繰り返しているに過ぎない。したがって、特段の事情がない限り、6ヶ月という期間経過そのものが原因となって自白がなされたとは認められず、拘禁と自白との間に因果関係はないといえる。
結論
本件自白は「不当に長い拘禁」後の自白にはあたらず、証拠能力が認められる。したがって、原審が当該自白に基づいて有罪を認定したことに違法はない。
実務上の射程
自白の証拠能力排除事由として「不当に長い拘禁」を検討する際、単なる期間の長さだけでなく、拘禁と自白の因果関係を重視する立場を明確にしている。答案上は、虚偽排除・人権保障の趣旨から因果関係の有無を検討する際のメルクマール(自白のタイミング、一貫性等)として活用できる。なお、本判決は公判廷での自白に補強証拠が不要であるとする旧法下の判断(現在は否定される)も含むが、拘禁の因果関係に関する法理は現行法下でも維持されている。
事件番号: 昭和24(れ)276 / 裁判年月日: 昭和24年6月28日 / 結論: 棄却
一 拘禁と自白との間に因果關係のないことが明らかな場合の自白は、憲法第三八條第二項並びに刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる不當に長く拘禁された後の自白に當らないことは、當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三〇號同二三年二月六日大法廷判決、同二二年(れ)第二七一號同二三年六月二三日大法廷判決) 二 …