昭和二一年一一月一八日警察署へ同行引致、同年一二月二三日勾留状執行、翌二二年六月三日保釋まで六ケ月一六日の拘禁の後、右保釋の日に第二審公判廷でなされた自白が證據に引用され、しかもその犯罪がわずか三個の窃盗行爲に過ぎない場合でも、被告人が、昭和二一年一二月一一日警察官の取調に対して自白して以來、第一審公判廷及び第二審公判廷において終始一貫自白しており、被告人の外に數名の共犯者があり、その取調に相當の日時を要し第二審公判期日が被告人又は辯護人の不出頭等のために變更された點並びに現時の種々な惡條件の下の制約殊に當時下級審裁判所に刑事事件が輻輳し、職員に缺員が多かつた等の事情を參酌すれば、右拘禁期間は本件の審理に必要であつたと認められ、右の自白は不當に長く拘禁された後の自白に當らない。
憲法第三八條第二項及び刑訴應急措置法第一〇條第二項と六ケ月一六日の拘禁後の自白
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」に該当するか否かは、単に拘禁期間の長短のみならず、事件の複雑性、共犯者の有無、公判手続の経緯、及び当時の裁判所の処理状況等の諸事情を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
約6ヶ月半という長期間の拘禁中または拘禁直後になされた自白が、憲法38条2項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。
規範
憲法38条2項が「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」の証拠能力を否定する趣旨は、長期の拘禁による精神的苦痛から虚偽の自白が誘発される危険を排除する点にある。したがって、「不当に長く」といえるかは、単なる物理的期間だけでなく、事案の内容、捜査・審理の必要性、その他当時の客観的状況を参酌し、その期間の拘禁が審理のために真にやむを得ないものであったかという観点から判断される。
重要事実
被告人は、3件の窃盗容疑により昭和21年11月18日に同行引致され、同年12月23日から翌22年6月3日まで約6ヶ月半にわたり拘禁された。被告人は勾留中の警察官による取調べ段階から一貫して自白しており、第2審公判廷(保釈当日)でも自白した。本件には数名の共犯者が存在したほか、第2審の公判期日は被告人側の欠席等により変更されていた。また、当時は終戦直後の混乱期で、裁判所の事件輻輳と職員不足という客観的事情が存在していた。
あてはめ
本件の拘禁期間は約6ヶ月半であり、単純な窃盗事件としては長期にわたる。しかし、①共犯者が複数存在しその取調べに日時を要したこと、②被告人側の事情で公判期日が変更された経緯があること、③当時の裁判所において事件の激増と職員の欠員という「裁判所に顕著な事実」が存在したことを考慮すべきである。これらの特殊な情態の下では、当該期間の拘禁は本件審理に必要であったと認められる。また、被告人は拘禁当初から一貫して自白しており、長期拘禁によって初めて自白が引き出されたという事情も認められない。したがって、本件自白が不当な拘禁による精神的圧迫の下でなされたものとは評価できない。
結論
本件自白は「不当に長く拘禁された後の自白」には該当せず、憲法38条2項に違反しない。したがって、当該自白を証拠として引用した原判決に憲法違反はない。
実務上の射程
自白の証拠能力(憲法38条2項、刑訴法319条1項)が問題となる場面で、拘禁期間のみを理由に証拠排除を主張する際の反論として機能する。あてはめにおいては、遅延の責任が被告人側にあるか、事件の複雑性や当時の社会的情勢などの客観的事由があるかを具体的に摘示する必要がある。
事件番号: 昭和23(れ)718 / 裁判年月日: 昭和23年12月1日 / 結論: 棄却
一 當該公判廷における自白は刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる自白に包含せられないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年七月二九日言渡、同年(れ)第一六八號大法廷事件判決) 二 被告人は警察および檢察廳の取調べ以來本件犯行を自白し、つづいて被告人の勾留後約五〇日で開かれた第一審公判においても、同様自白…