一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の自白以外には見當らないけれどもかかる犯罪事實の一部分の認定に對する證據は被告人の自白以外にはないとしても、これを以て判示事實を被告人の自白のみによつて認定したものということは當を得ない。 二 深夜二人の壮漢に侵入され、匕首を以て脅かされたとすれば申向けられた言葉が金を貸せであろうと、金を出せであろうとにかかわらず、被害者は抵抗のできない程度の恐怖におそわれることは、經驗則にてらし認定し得るところであり、且つ強度に恐怖して自由を抑壓されておる被害者方の箪笥より奪い取つたものとすれば強盗を以て論ずべきは當然である(恐喝ではなく)。
一 犯罪事實の一部についての被告人の自白と憲法第三八條第三項 二 強盗の認定と實驗則
憲法38條3項,刑訴應急措置法10條3項,刑法236條1項
判旨
憲法38条3項の補強証拠は犯罪事実の全部を覆う必要はなく、被告人の自白以外に被害届や凶器等の証拠があれば補強法則に反しない。また、共謀の事実そのものについては、自白のみで認定することが可能である。
問題の所在(論点)
憲法38条3項の「その被告人の自白のみに基いて、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」という規定に関し、共謀の事実等の犯罪事実の一部について自白以外の証拠(補強証拠)がない場合に、有罪認定が可能か。
規範
憲法38条3項(および刑訴法319条2項)が規定する自白の補強法則において、補強証拠は犯罪事実の全部に及ぶ必要はなく、自白と相まって事実の真実性を担保し得るものであれば足りる。とりわけ、共謀の事実は、犯罪の主観的・手続的な構成要素の一部分にすぎないため、これについては被告人の自白のみによって認定することが許される。
重要事実
被告人は、共犯者ら3名と深夜に被害者A方に侵入し、匕首で脅迫して現金を強取したとして強盗罪で起訴された。被告人は公判において、共謀の事実および実行行為の分担(見張り)を自白した。証拠としては、被告人の自白のほかに、被害者Aが提出した強盗被害届、および共犯者から押収された匕首が存在した。被告人側は、共謀の事実を裏付ける証拠が自白以外に存在しないため、補強法則に反すると主張した。
あてはめ
本件では、被告人の自白以外に、被害者Aが提出した被害届および犯行に用いられた匕首の存在が認められる。これらは、強盗という犯罪事実の核心部分(客観的側面)を裏付ける補強証拠として十分である。被告人が主張する「共謀の事実」は犯罪事実の構成要素の一部にすぎず、自白以外の証拠が全体として強盗の事実を支えている以上、共謀それ自体に補強証拠がなくても「自白のみによる認定」には当たらない。また、強盗の手段としての脅迫についても、深夜に匕首を突きつけた事実は被害者の自由を抑圧するに足りるものであり、被害届等の証拠とあわせて適法に認定されている。
結論
被告人の自白と被害届・凶器等の客観的証拠を総合して犯罪事実を認定することは、憲法38条3項の補強法則に違反しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験においては、補強証拠の必要な範囲(実質説・真実性担保説)の根拠として引用する。共謀の事実(主観的要素や一部の構成要件要素)については、客観的事実についての補強があれば、自白のみで認定できるとする判例法理の典型例として、事実認定の小問で活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)532 / 裁判年月日: 昭和23年10月5日 / 結論: 棄却
論旨は現場の檢證をしないことを非難するのであるが檢證をなすべきか否かは原審の裁量にまかせられているのであるから檢證をしないからとて何等の法則にも違反しない。從つて論旨は理由がない。
事件番号: 昭和22(れ)136 / 裁判年月日: 昭和22年12月16日 / 結論: 棄却
犯罪事實の一部について證據として本人の自白があるだけで他の證據がない場合でも、その自白と他の證據を綜合して、犯罪事實全體を認定することは、刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定に違反するものではない。