論旨は現場の檢證をしないことを非難するのであるが檢證をなすべきか否かは原審の裁量にまかせられているのであるから檢證をしないからとて何等の法則にも違反しない。從つて論旨は理由がない。
檢證をしないことと上告理由
刑訴法175條,刑訴法344條1項
判旨
被告人の自白以外に被害始末書や被害物件の存在などの証拠がある場合、それは犯罪の発生を証明する補強証拠となり、自白のみによる有罪判決には当たらない。また、一個の犯罪事実の一部について自白以外の不利益な証拠がない場合であっても、憲法38条3項にいう「自己に不利益な唯一の証拠」には該当しない。
問題の所在(論点)
被告人の自白以外に、被害事実を裏付ける客観的な証拠(被害始末書や被害物件)が存在する場合に、憲法38条3項が禁止する「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合」に該当するか。
規範
憲法38条3項にいう「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合」とは、被告人の自白を裏書するに足りる証拠(補強証拠)が全く存在しない場合を指す。犯罪事実の客観的な発生(被害の発生)を証明する証拠があれば、それと自白を対照して事実を認定することは許される。また、一個の犯罪事実の「一部」について自白以外の証拠が欠けていたとしても、同条項には抵触しない。
重要事実
被告人両名および共犯者は、路上において被害者を包囲し、「金を出せ服を脱け」と脅迫して反抗を抑圧し、金品を強取した。原審は、被告人らの自白のほか、各被害始末書および被害物件の存在を証拠として挙げて強盗罪の成立を認めた。これに対し弁護人は、現場検証が行われていないことや、自白以外に証拠がない部分があるとして、自白のみによる有罪判決を禁じた憲法38条3項等に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…
あてはめ
本件において、原判決は自白のほかに、被害始末書および被害物件の存在という証拠を挙示している。これらは本件犯罪における「被害の発生」という客観的事実を証明するものであり、被告人の自白を裏書するに足りる証拠といえる。このような補強証拠がある以上、これらを自白と対照して犯罪事実を認定することは適法である。また、犯罪事実の一部(犯行の細部等)について直接的な補強証拠がなく自白のみであったとしても、犯罪事実の主要部分に補強証拠がある以上、憲法の規定に反するものとは解されない。
結論
被告人の自白を裏付ける補強証拠が存在するため、本件認定は憲法38条3項に違反しない。上告棄却。
実務上の射程
自白の補強証拠の必要範囲に関するリーディングケース。実務上、補強証拠は「罪体(犯罪の客観的事実)」の全部について必要ではなく、自白の真実性を担保できる程度(実質説に近い運用)で足りるとする判例法理の基礎となっている。答案上は、補強証拠の要否が問われる場面で、客観的な被害事実の存在が自白の真実性を裏付けているかを論じる際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和30(あ)324 / 裁判年月日: 昭和30年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項に基づき、被告人の自白のみで有罪とすることはできないが、自白のほかに補強証拠を総合して犯罪事実が認定されている場合には、適法に有罪判決を下すことができる。 第1 事案の概要:被告人が自白を強要されたと主張し、自白のみによる処罰(憲法38条3項違反)等を理由に上告した事案。記録上、自白…