犯罪事實の一部について證據として本人の自白があるだけで他の證據がない場合でも、その自白と他の證據を綜合して、犯罪事實全體を認定することは、刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定に違反するものではない。
犯罪事實の一部について證據として本人の自白の外他に證據がない場合と刑訴應急措置法第一〇條第三項
刑訴應急措置法10條3項
判旨
憲法38条3項及び刑事訴訟法上の自白の補強法則(憲法施行に伴う応急措置法10条3項)は、犯罪事実の全部について補強証拠を要するものではなく、犯罪事実の一部に自白しかない場合であっても、罪体全体として傍証があれば足りる。
問題の所在(論点)
強盗罪の共同正犯において、共謀(意思連絡)という犯罪事実の一部について、被告人本人の自白以外に証拠がない場合、自白の補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項)に違反するか。
規範
自白の補強法則は、一つの犯罪について被告人を有罪とするために、自白のみでは不十分であり他に傍証(補強証拠)を要することを規定したものである。しかし、この要件は、犯罪事実を構成する個々の細部(一部の事実)に至るまで、そのすべてについて自白以外の傍証がなければならないという趣旨ではない。罪体(corpus delicti)の主要部分について補強証拠があれば、共謀等の細かな事実について自白のみであっても有罪認定は可能である。
重要事実
被告人は他の3名と共謀の上、被害者宅に侵入し、被害者の頭に襦袢を被せ両手を縛るなどの暴行・脅迫を加えて反抗を抑圧し、現金や衣類を強取したとして強盗罪の共同正犯で起訴された。被告人は予審において「4人で脅かして盗る気になって家に入った」旨、強盗の意思連絡(共謀)を自白していたが、上告審において、当該共謀の事実については本人の自白以外に証拠がなく、補強法則に違反すると主張した。
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…
あてはめ
原判決は、被告人が共犯者と共に強盗に及んだという犯罪事実の認定にあたり、被告人の自白だけでなく、証人(被害者)の供述記載を証拠として引用している。強盗という一つの犯罪事実全体を見れば、被害者の供述という「傍証」が存在しており、犯罪の客観的事態(罪体)は裏付けられている。したがって、共謀という事実の細部について、たとえ直接的には被告人の自白以外に証拠がないとしても、自白のみによって有罪としたことにはならない。
結論
犯罪事実の一部(共謀の有無等)について自白以外に証拠がないとしても、罪体全体に補強証拠がある限り、補強法則には違反しない。
実務上の射程
自白の補強法則が「犯罪事実の全部」に及ぶのか、それとも「罪体の主要部分」で足りるのかという論点に対し、後者の立場(実質説に近い立場)を明示したものとして重要である。実務上、共謀事実は密室で行われるため自白に頼らざるを得ないことが多いが、客観的な実行行為等に補強があれば、共謀自体に直接の補強証拠は不要であると論証する際に用いる。
事件番号: 昭和26(れ)764 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白に加えて他の証拠により犯罪の客観的事実が認定される場合、共謀の事実についてのみ自白以外に証拠がなくても、憲法38条3項及び刑訴法319条1項に抵触しない。 第1 事案の概要:被告人は共犯者として起訴されたが、犯罪の客観的な実行事実については被告人の自白とそれ以外の証拠によって認定されて…