しかし憲法第三八條第三項によつて本人の自白を補強する證據は犯罪事實の全部に亘つて存することを必要とするものではなく、その證據と本人の自白と相俟つて犯罪事實の全部が認定されればよいのであることは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第一五三號同二三年六月九日大法廷判決)
自白と補強證據
憲法38條3項,刑訴應急措置法10條3項
判旨
憲法38条3項の自白の補強証拠は、犯罪事実の全部に及ぶ必要はなく、自白と相まって犯罪事実の全部を認定できる程度で足りる。また、補強証拠自体から犯人が被告人であると特定できなくとも、自白と総合して犯人性が認められるならば自白法則に反しない。
問題の所在(論点)
自白の補強証拠として、犯行の客観的事実を裏付ける証拠はあるが、犯人が被告人であることを直接裏付ける証拠がない場合に、憲法38条3項の補強法則を満たすか。すなわち、補強証拠に「犯人性」の立証が含まれる必要があるか。
規範
憲法38条3項に基づき、本人の自白のみで有罪とすることはできないが、補強証拠は犯罪事実の全部にわたって存在することを要しない。その証拠と本人の自白とが相まって犯罪事実の全部が認定されれば足りる。また、補強証拠によって犯人との結びつき(犯人性)が直接証明される必要はなく、犯罪事実の客観的な発生が裏付けられれば、自白とあわせて犯人性を認定することも許容される。
重要事実
被告人らは共謀の上、顔面を覆面してD指導所に侵入し、斧で職員を脅迫して金品を強取したとして強盗罪に問われた。被告人らは公判廷で犯行を認める自白をしたが、証人(被害者)らの供述によれば、犯人は覆面をしており、かつ証人らも目隠しをされていたため、侵入者が被告人らであるとの特定(犯人性)はできなかった。もっとも、証人らの供述内容は、犯人の行動、犯行日時、場所等について被告人らの自白と詳細に一致していた。
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…
あてはめ
本件では、被告人らが公判廷で詳細な自白を行っている。これに対し、被害者らの証言は、犯人の具体的な行動や犯行態様について自白と整合する事実を供述しており、犯罪の客観的発生(強盗の事実)を裏付けている。被害者が覆面や目隠しの影響で犯人の顔を識別できておらず、証言単体から被告人が犯人であると認められないとしても、自白と当該証言を総合すれば本件犯罪事実の全部(犯人性を含む)を認定することが可能である。したがって、当該証言は自白を補強するに足りる証拠といえる。
結論
補強証拠は、自白と相まって犯罪事実の全部を認定できるものであればよく、補強証拠自体から被告人の犯人性を直接認めることができなくても、自白を補強する証拠として適格性を有する。よって、原判決に違憲・違法はない。
実務上の射程
司法試験において、補強法則の範囲が問われた際のリーディングケースとなる。答案上は「実質説(自白の真実性を担保し得る程度の証拠があれば足りる)」の立場を補強する論拠として用い、犯人性については補強証拠が不要(自白だけで犯人性を認定してよい)とする判例の立場を明示する際に有用である。
事件番号: 昭和23(れ)1588 / 裁判年月日: 昭和24年5月31日 / 結論: 棄却
被告人勾留中における檢事の聽取書を證據に取つても違憲でないこと及犯意だけに付ては自白が唯一の証據であつても違憲でないことは既に當裁判所大法廷判決によつて明にされて居る。(昭和二三年(れ)第四三一號事件同年一二月二七日言渡大法廷判決、昭和二二年(れ)第一五三號事件同二三年六月九日言渡大法廷判決參照)
事件番号: 昭和24(れ)1354 / 裁判年月日: 昭和24年7月19日 / 結論: 棄却
いわゆる自白の補強證據というものは。被告人の自白した犯罪が架空のものではなく、現實に行われたものであることを證するものであれば足りるのであつて、その犯罪が被告人によつて行われたという犯罪と被告人との結びつきまでをも證するものであることを要するものではない。