一 被告人が第一審公判における自白を第二審で覆した場合裁判所は諸般の資料状況に照し第一審における自白の方が眞實に合するとの心證を得たときは第二審の供述を採らず第一審の方を採つても違法でない。 二 他に補強證據なくして被告人の自白(公判廷以外の)のみで斷罪することは法の許さない處であること所論の通りである。しかし相當の補強證據が有れば、これと自白とを綜合して事實を認定することは固より妨げない處で、其補強證據は必ずしも犯罪構成要件たる事實全部を證明するに足るものでなくてもよいこと既に當裁判所の判例とする處である。(昭和二二年一二月一六日言渡同二二年(れ)第一三六號事件判決)
一 被告人の供述の改變と自由心證 二 犯罪事實の一部の證據が被告人の自白だけの場合と刑訴應急措置法第一〇條第三項
刑訴法337條,刑訴應急措置法10條3項,憲法38條3項
判旨
自白に対する補強証拠は、犯罪構成要件の全事実に及ぶ必要はなく、自白と相まって犯罪事実を認定し得る程度のものであれば足りる。
問題の所在(論点)
自白のみによる処罰を禁ずる補強法則において、補強証拠はどの程度の範囲で犯罪事実を裏付ける必要があるか。また、一審の自白を二審で翻した場合に、一審の自白を証拠として採用することは許されるか。
規範
憲法38条3項及び刑事訴訟法上の自白の補強法則(旧法下を含む)において、補強証拠は必ずしも犯罪構成要件たる事実の全部を証明するに足りるものであることを要しない。自白の真実性を担保し、これと総合して犯罪事実を認定し得る程度の証拠があれば、補強証拠として十分である。
重要事実
被告人Aは、第一審の公判廷において犯行を自白したが、第二審においてその自白を翻した。原審(二審)は、第一審の自白の方が真実に合致するとの心証を得て、証人尋問等の更なる証拠調べを行うことなく、第一審の自白及び相被告人Bの自白、ならびにその他の書証を証拠として採用し、被告人の有罪を維持した。これに対し、被告人側は補強証拠の不足や手続の違法を主張して上告した。
あてはめ
まず、第一審の自白を第二審で翻した場合であっても、諸般の状況に照らして一審の自白が真実であると判断されるならば、これを証拠として採用することは裁判所の自由な心証に委ねられており、直ちに違法とはならない。次に、補強証拠の範囲については、本件で原審が挙げた書証は、被告人及び相被告人の自白の真実性を補強するに十分な内容であった。犯罪構成要件の全てを網羅する独立した証拠がなくても、これらの書証と自白を総合すれば、判示各犯罪事実を認定することが可能である。
結論
本件における補強証拠は十分であり、原判決に憲法違反や証拠法則上の違法は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
補強証拠の程度に関するリーディングケース(実質説)。実務上、補強証拠は『自白の真実性を担保し得る程度のもの』であれば足り、主要事実の全てを裏付ける必要はない。答案では、共犯者の自白を補強証拠として用いる際の許容性や、補強証拠の要否を論じる場面で本規範を引用する。
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…
事件番号: 昭和23(れ)678 / 裁判年月日: 昭和23年10月30日 / 結論: 棄却
一 被告人の所爲が、所論のごとく、見張りを命ぜられて、終始家の外部にうろうろしておつたに過ぎないとしても被告人が、他の共犯者と本件犯行について共謀をした事實が認定せられる以上、強盜の實行行爲をした他の共犯者と共に、共同正犯の罪責を免れないことは、當裁判所の判例の示すところによつて明らかである。 二 自白を補強すべき證據…