被告人の過失が、訴因においては、酒に酔い注意力が散漫になつたのであるから運転を断念すべきであるのに自車の運転を開始し、的確な前方注視ができないまま漫然進行した過失であるとされているのに対し、自車を運転進行中、路上に仰臥していた被害者を発見して一旦停止し、下車して同人を道路左端に移し再び発進した際、右被害者の動静に注意し前方を注視しながら進行することを怠つた過失であると認定するには、訴因の変更手続を必要とする。
訴因と異なる態様の過失を認定するにつき訴因変更手続を要するとされた事例
刑訴法312条
判旨
裁判所が訴因と異なる態様の過失を認定する場合、被告人の防御の機会を確保するため、原則として訴因変更手続を経る必要がある。
問題の所在(論点)
裁判所が訴因に記載された過失の態様とは異なる態様の過失事実を認定する場合、訴因変更手続(刑訴法312条1項)を経る必要があるか。
規範
検察官が提示した訴因と実質的に異なる事実、特に過失犯において過失の具体的態様が異なる事実を認定する場合には、被告人に防御の機会を与えるため、刑事訴訟法312条1項に基づく訴因変更手続を要する。
重要事実
被告人は業務上過失致死罪で起訴された。訴因では「酒酔いのため運転を断念すべき義務があるのに漫然と運転を開始し、前方注視を怠った過失」とされていた。しかし、原審(控訴審)は、訴因変更手続を経ることなく、「路上にいた被害者を発見して一旦停車し、道路端に移した後に再発進した際、被害者の動静注視を怠った過失」という、訴因とは異なる過失態様を認定して有罪とした。
事件番号: 昭和44(あ)995 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 破棄差戻
被告人の過失が、訴因においては、濡れた靴をよく拭かずに履いていたため、一時停止の状態から発進するにあたりアクセルとクラツチペタルを踏んだ際足を滑らせてクラツチペルから左足を踏みはずした過失であるとされているのに対し、交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際ブレーキをかけるのを遅れた過失であると認定するには、訴因の…
あてはめ
本件訴因に示された過失は、運転開始前の酒気帯び状態に起因する判断誤りと前方不注視である。これに対し、原審が認定した事実は、一旦停車して被害者を救護・移動させた後の再発進時における注視義務違反である。両者は過失の具体的態様を明らかに異にしており、被告人の防御活動に実質的な不利益を及ぼすおそれがある。したがって、このような認定を行うには、訴因変更手続により被告人に防御の機会を与えるべきであった。
結論
訴因変更手続を経ずに異なる過失態様を認定した原判決には、判決に影響を及ぼす法令違反があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
過失犯(特に交通事故)の訴因変更の要否に関するリーディングケース。一般に訴因の一般的・抽象的記載から外れる具体的態様を認定する場合や、被告人の防御の主眼が変わる場合には、本判決に基づき訴因変更が必要とされる。
事件番号: 平成12(あ)1242 / 裁判年月日: 平成15年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴因における過失の態様を具体化・補充する程度の認定であれば、訴因変更手続を経る必要はないが、第一審判決に事実誤認がある場合には、訴因変更命令義務の有無にかかわらず当該判決は破棄されるべきである。 第1 事案の概要:被告人が「進路前方を注視せず、進路の安全を確認しなかった」という過失の態様で起訴され…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …