被告人の過失が、訴因においては、濡れた靴をよく拭かずに履いていたため、一時停止の状態から発進するにあたりアクセルとクラツチペタルを踏んだ際足を滑らせてクラツチペルから左足を踏みはずした過失であるとされているのに対し、交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際ブレーキをかけるのを遅れた過失であると認定するには、訴因の変更手続を必要とする。
訴因と異なる態様の過失を認定するにつき訴因変更手続を要するとされた事例
刑訴法312条,刑法211条
判旨
起訴状に明示された過失の態様と異なる事実を認定する場合、被告人の防御に不利益を及ぼすおそれがあるため、訴因変更手続を要する。本件のように「発進時の操作ミス」から「接近時の制動遅れ」への変更は、過失の態様が明らかに異なり、手続なしの認定は違法である。
問題の所在(論点)
訴因として特定の過失の態様が明示されている場合に、これと異なる態様の過失を認定するためには、訴因変更手続を要するか。過失の具体的行為の差異が、被告人の防御に実質的不利益を及ぼすかが問題となる。
規範
訴因は、検察官の主張する具体的犯罪事実を画定して裁判所の審判対象を限定し、被告人に防御の範囲を示すものである。起訴状に訴因として明示された過失の態様を認めず、それとは別の態様の過失を認定する場合には、被告人に防御の機会を与えるため、原則として訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を要する。
重要事実
被告人は自動車運転業務上の過失致傷罪で起訴された。訴因(公訴事実)では「一時停止中に発進しようとして、雨で濡れた靴でクラッチ操作を誤り自車を暴進させた過失」とされていた。しかし、第一審は訴因変更手続を経ずに、「前車が一列に停止している状況で、ブレーキをかけるのを遅れた過失」により追突した事実を認定した。原審も、同一の注意義務における具体的行為の差異に過ぎず防御に実質的不利益はないとして、これを維持した。
あてはめ
本件訴因で明示された過失は「停車状態からの発進操作上のミス」である。これに対し、認定された過失は「走行中における制動操作の遅念」であり、両者は事故発生に至る状況および注意義務の内容が明らかに異なる。このような事実関係の変更は、被告人にとって防御の準備を尽くすべき対象が根本的に変わることを意味する。したがって、訴因変更手続を経ずに異なる態様の過失を認定することは、被告人に不測の不利益を与え、防御の機会を奪うものといえる。
結論
訴因変更手続を経ずに異なる過失の態様を認定した第一審およびそれを維持した原判決には、刑事訴訟法312条1項の解釈を誤った違法がある。原判決および第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻す。
実務上の射程
過失犯において「過失の態様」が訴因の不可欠な要素であるか、あるいは単なる具体的態様の相違(不利益がない場合)に留まるかの判断基準を示す。実務上、過失の具体的行為が著しく異なる場合は「審判対象の画定」および「防御権の保障」の観点から、訴因変更手続が必須となることを強調する際に引用すべき判例である。
事件番号: 平成12(あ)1242 / 裁判年月日: 平成15年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴因における過失の態様を具体化・補充する程度の認定であれば、訴因変更手続を経る必要はないが、第一審判決に事実誤認がある場合には、訴因変更命令義務の有無にかかわらず当該判決は破棄されるべきである。 第1 事案の概要:被告人が「進路前方を注視せず、進路の安全を確認しなかった」という過失の態様で起訴され…
事件番号: 昭和42(あ)2747 / 裁判年月日: 昭和44年2月5日 / 結論: 棄却
一所為数法の関係にあたると認定された所為を併合罪にあたると主張する上告論旨は、被告人にとつて不利益な主張であつて、上告理由として許されない。
事件番号: 昭和44(あ)2556 / 裁判年月日: 昭和45年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が原判決を具体的に論難するものではなく、刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない場合には、適法な上告理由とは認められず上告は棄却される。 第1 事案の概要:本件の上告人(被告人側)は、原判決に対して違憲の主張等を含む上告趣意を提出したが、その内容は原判決の具体的な判断や手続きを的確に論難す…