浴場業者が、あせも、ただれ等防止用の白色粉末剤(いわゆる天花粉)を番台に置いて、入浴者の求めに応じて反覆販売する行為は、刑法第二一一条の業務に該当し、これを客に交付する際には、他の薬物もしくは異物でないことを確認すべき業務上の注意義務がある。
浴場業者があせも、ただれ等防止用の白色粉末剤を販売する行為に対する擬律。
刑法211条,薬事法2条2項
判旨
浴場業者が入浴客に対し白色粉末剤を反復販売する行為は刑法211条の「業務」に該当し、販売に際しては当該薬剤が他物でないかを確認すべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
浴場業者が本来の業務である入浴サービスの提供に付随して行う薬剤の販売行為が、刑法211条の「業務」に該当するか。また、その際の注意義務の内容が問題となる。
規範
刑法211条の「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づき継続して行う事務を指し、本来の主たる業務に付随する行為であっても、反復継続して行われ、かつ他人の生命・身体に危険を及ぼすおそれがある場合にはこれに含まれる。また、薬剤等の授受を伴う業務に従事する者は、当該薬剤が目的物と相違ないかを確認し、他人の生命・身体に対する危難を未然に防止すべき業務上の注意義務を負う。
重要事実
浴場業者である被告人は、あせもやただれ等の防止に用いる白色粉末剤(いわゆる天花粉)を番台に備え置いていた。被告人は、入浴客からの求めに応じ、当該粉末剤を反復して販売していたが、客に交付する際にその内容物を十分に確認せず、結果として他物(判決文からは具体的な異物名は不明)を交付し、死傷の結果を生じさせた。
事件番号: 昭和27(あ)3776 / 裁判年月日: 昭和28年12月22日 / 結論: 棄却
一 看護婦が主治医の処方箋によつて、患者に静脈注射をするに際し、注射液の容器に貼付してある標示紙を確認せず、薬品を間違えて注射した過失により、これを死に致したときは、業務上過失致死罪が成立する。 二 被告人は厚生技官であるけれども薬剤師としての技官である。薬剤師が製剤した場合、薬事法所定の標示を為すべき義務があること勿…
あてはめ
被告人は浴場業者という「社会生活上の地位」にあり、番台における粉末剤の販売は「反復」して行われていた。薬剤の授受は誤りがあれば人の身体に危害を加える性質を有する行為である。したがって、本件販売行為は「業務」に該当する。そして、粉末剤の交付に際しては、それが「他の薬物もしくは異物でないことを確認すべき」であったといえ、被告人にはこの業務上の注意義務の懈怠が認められる。
結論
浴場業者による粉末剤の販売行為は刑法211条の業務に該当し、内容確認を怠った点について業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
主たる業務(公衆浴場業)そのものではなく、それに付随して行われる事務であっても、反復継続性と生命・身体への危険性があれば「業務」性が認められる点を確認した判例である。答案上は、付随業務の業務性および、危険物を扱う際の基本的な確認義務を論証する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)3397 / 裁判年月日: 昭和33年9月3日 / 結論: 棄却
貨物自動車運転者が道路の交叉点を右折しようとするにあたり、該交叉点に差しかかる六、七米手前において同一方向に歩行している児童の姿を認めた場合には、車体を歩行者に接触せしめないよう前方左右を警戒し、警音器を吹鳴し、または極度に徐行するか、あるいは停車する等危害の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …