刑法第二一一条前段の規定をもつて、憲法第三六条にいわゆる残虐な刑罰を定めたものといえないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二三年(れ)第一〇三三号同年一二月一五日宣告、刑集二巻一三号一七八三頁、同二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日宣告、刑集二巻七号七七七頁)の趣旨に照らして明らかである。
刑法第二一一条前段の規定は憲法第三六条にいわゆる残虐な刑罰を定めたものか。
刑法211条前段,憲法第36条
判旨
刑法211条前段の業務上過失致死傷罪の規定は、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」には当たらず、また自動車運転者に対して特段の重い注意義務を課すものでもないから憲法14条にも違反しない。
問題の所在(論点)
刑法211条前段(業務上過失致死傷罪)の規定は、憲法36条が禁じる残虐な刑罰に該当するか。また、自動車運転者の刑事責任を問うことが憲法14条の平等原則や、憲法25条(生存権)等の理念に反するか。
規範
刑法211条前段の規定は、業務上の注意義務違反という類型に対して設けられた法定刑の範囲内での処罰を定めたものであり、これが人道上の観点から異常に酷烈な刑罰を意味する憲法36条の「残虐な刑罰」に該当することはない。また、個別の職責に応じた注意義務の判断がなされるものであり、自動車運転者という立場のみをもって法の下の平等に反する差別を設けたものとはいえない。
重要事実
被告人が自動車運転中に事故を起こし、業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)に問われた事案。弁護側は、本件事故の原因が被告人の過失ではなく、会社側の営業方法や国の道路・交通政策の不備にあると主張し、また同条の規定自体が憲法36条(残虐な刑罰の禁止)や憲法14条(法の下の平等)等に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和30(あ)480 / 裁判年月日: 昭和32年3月26日 / 結論: 棄却
刑法第二一一条は憲法第一四条に違反しない。
あてはめ
まず、憲法36条違反について、法定刑の範囲内で量刑を行うことは残虐な刑罰に当たらないとする大法廷判例の趣旨に照らし、刑法211条前段の規定自体に残虐性は認められない。次に、過失の有無については、挙示の証拠に照らし被告人の注意義務違反が肯定される。会社の営業方法や国家の政策不備という事情は、被告人本人の具体的・刑事的責任とは別個の問題であり、過失の成立を妨げるものではない。また、原判決が自動車運転者であることを理由に不当に加重された差別的な義務を課した事実も認められない。
結論
刑法211条前段の規定は憲法36条に違反せず、被告人の過失責任を認めた原審の判断に憲法14条違反等の違憲性も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
業務上過失致死傷罪の合憲性を確認した判例である。答案上は、過失犯の過失の所在を論ずる際、国家の政策や社会構造的な不備といった外的要因が、行為者個人の注意義務の存否に直接影響しないことを説明する際の傍証として活用できる。
事件番号: 昭和37(あ)2772 / 裁判年月日: 昭和39年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法211条前段の業務上過失致死傷罪は、加害者・被害者の別や運転資格の有無を問わず、業務上の必要な注意を怠って人を死傷させた者すべてに適用される。同条の適用は、法の下の平等(憲法14条)や適正手続(憲法13条)に反するものではない。 第1 事案の概要:被告人は、自動車の運転に関して業務上の必要な注…