業務上過失傷害事件において、原判決は、被告人が業務上必要な注意を怠つたことを認定して過失責任を認めたのであつて、被告人が自動車運転者なるが故に苛酷な業務上の注意義務を負わせたものではない。人が一定の業務に従事しているということは、その人の属性による刑法上の身分であつて、憲法第一四条の社会的身分といえない(昭和二五年(れ)第一二一九号同二六年八月一日大法廷判決、刑集五巻九号一七〇九頁・昭和三〇年(あ)第四八〇号同三二年三月二六日第三小法廷判決、刑集一一巻三号一一〇八頁参照)。
刑法第二一一条違反の被告人が自動車運転者なる場合と憲法第一四条にいわゆる「社会的身分」。
刑法211条,憲法14条
判旨
刑法上の業務に従事している事実は、憲法14条にいう「社会的身分」には当たらず、業務上過失致死傷罪を重く処罰することは法の下の平等に反しない。本判決は、自動車運転者という立場に基づく注意義務の加重は業務上の注意義務の懈怠を理由とするものであり、憲法違反ではないとした。
問題の所在(論点)
刑法上の「業務」に従事している事実が、憲法14条1項の「社会的身分」に該当するか。また、業務上過失致死傷罪が普通過失致死傷罪よりも重く処罰されることが法の下の平等に反しないか。
規範
憲法14条1項が規定する「社会的身分」とは、人が社会において占める継続的な地位をいうが、一定の「業務」に従事しているという事実は、刑法上の身分ではあっても憲法上の「社会的身分」には当たらない。
重要事実
被告人は自動車の運転に従事していた際、業務上必要な注意を怠り、過失致死傷罪(当時の刑法211条前段)に問われた。これに対し、弁護人は、自動車運転者であるという理由だけで過失責任を重く課すことは、憲法14条の法の下の平等に違反する旨を主張して上告した。
あてはめ
判例の趣旨に照らせば、特定の業務に従事していることは刑法上の身分を構成するが、憲法14条の「社会的身分」とは解されない。本件においても、原判決は被告人が自動車運転者であるからといって恣意的に過酷な義務を課したのではなく、あくまで業務上必要な注意を怠ったという過失責任を認定したに過ぎない。したがって、業務の性質上、高度の注意義務が課されることに合理的な根拠が認められる以上、憲法違反の事由は存在しない。
結論
一定の業務に従事する事実は憲法14条の社会的身分に当たらず、業務上過失致死傷罪の処罰規定は合憲である。上告棄却。
実務上の射程
業務上過失致死傷罪や他の身分犯の合憲性を検討する際の基礎となる判例である。憲法上の「社会的身分」の意義を限定的に解する立場を示しており、職業や特定の活動に基づく法的な区別が不合理な差別に当たらないことを論証する際に引用される。
事件番号: 昭和30(あ)480 / 裁判年月日: 昭和32年3月26日 / 結論: 棄却
刑法第二一一条は憲法第一四条に違反しない。