論旨は、刑法第二一一条前段を適用、処断した原判決の憲法第一四条違反をいうのであるが、刑法第二一一条が業務上必要な注意を怠り人を死に致した者につき、業務にかかわりない者より重い刑罰を定めているのは、人の地位、身分によつて差別を設けたものではなく、いかなる地位、身分にある者でも、いやしくも一定の業務に従事する者は、すべて同条の適用を受け、また業務の種類によつて異なる取扱いをするものでなく、ひつきよう、同条は、いわば業務について特別の注意義務を定めたものであつて、人が誰であるかは問うところではなく、そして人が一定の業務に従事しているということは、その人の属性による刑法上の身分であつて、憲法第一四条の社会的身分といえないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかであるから論旨は採るを得ない(昭和二五年(れ)第一二一九号同二六年八月一日大法廷判決、刑集五巻九号一七〇九頁・昭和二七年(あ)第五五三〇号同二九年九月二一日第三小法廷判決、刑集八巻九号一五〇八頁・昭和三〇年(あ)第二一六号同年八月一八日第一小法廷判決、刑集九巻九号二〇三一頁・昭和三〇年(あ)第四八〇号同三二年三月二六日第三小法廷判決、刑集一一巻三号一一〇八頁各参照)。
刑法第二一一条は憲法第一四条に違反するか。
刑法211条,憲法14条
判旨
業務上過失致死傷罪を定める刑法211条が、業務に従事しない者よりも重い刑罰を規定していることは、憲法14条の禁止する社会的身分による差別に当たらない。業務に従事している事実は刑法上の身分ではあるが、特別の注意義務を課す合理的な根拠があり、人の属性を理由とした差別ではない。
問題の所在(論点)
刑法211条前段(業務上過失致死傷罪)が、業務に従事する者に対して一般の過失致死傷罪よりも重い法定刑を科していることが、憲法14条1項の法の下の平等に反するか。特に「業務に従事していること」が憲法上の「社会的身分」に該当し、不当な差別に当たるか。
規範
憲法14条1項にいう「社会的身分」とは、人が社会において占める継続的な地位を指すが、刑法211条前段が業務に従事する者に対して課す重い注意義務は、業務という特別の活動に従事する者すべてに等しく適用されるものである。これは業務に伴う危険性等に鑑みた特別の注意義務の規定であり、特定の属性を有する個人を不当に差別するものではない。
重要事実
被告人は、業務上の過失により人を死に至らしめたとして、刑法211条前段(業務上過失致死罪)を適用され、有罪判決を受けた。これに対し被告人側は、同条が業務に従事しない者と比較して業務従事者を重く処断することは、憲法14条が禁じる「社会的身分」による不当な差別に該当し、違憲であると主張して上告した。
あてはめ
刑法211条は、特定の地位や家柄などによる差別を設けたものではなく、いかなる地位にある者であっても一定の業務に従事する以上は等しく適用の対象となる。また、業務の種類によって異なる取扱いをするものでもない。すなわち、同条は業務という活動の性質に由来する「特別の注意義務」を定めたものにすぎない。したがって、人が一定の業務に従事しているという事実は、刑法上の意味での身分には該当し得るとしても、憲法14条が禁じる「社会的身分」には当たらない。
結論
刑法211条前段の規定は憲法14条に違反しない。したがって、同条を適用して処断した原判決に違憲の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、刑法上の加重規定(身分犯)と憲法14条の関係を整理する際のリーディングケースである。特に「業務」という概念が憲法上の不当な差別には当たらないことを明示しており、責任の重い立場にある者に加重された注意義務を課すことの合理性を肯定する理論的基礎として答案で活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)480 / 裁判年月日: 昭和32年3月26日 / 結論: 棄却
刑法第二一一条は憲法第一四条に違反しない。