判旨
業務上過失致死傷罪を定める刑法211条が、業務に従事しない者よりも重い刑罰を規定していることは、憲法14条の禁止する差別には当たらない。一定の業務に従事していることは刑法上の身分ではあるが、同憲法条項にいう「社会的身分」には該当しないためである。
問題の所在(論点)
刑法211条(業務上過失致死傷罪)が、業務者に対し非業務者よりも重い刑罰を規定していることは、憲法14条1項の「社会的身分」による差別に該当し、違憲とならないか。
規範
憲法14条1項の「社会的身分」とは、人が社会において占める継続的な地位を指すが、刑法が特定の類型(業務者)に対して特別の注意義務を課し、これに反した者を重く処罰することは、合理的な根拠に基づく区別である。すなわち、一定の業務に従事する者がすべて同様の適用を受ける限り、人の属性による差別とはいえず、同憲法条項に違反しない。
重要事実
被告人は、業務上の必要な注意を怠り、人を死傷させたとして刑法211条(業務上過失致死傷罪)の適用を受けた。これに対し被告人側は、同条が業務に従事しない者による過失致死傷罪(刑法209条・210条)と比較して重い刑罰を課していることは、人の地位や身分に基づく不当な差別であり、法の下の平等を定めた憲法14条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
刑法211条は、業務に従事する者に対し、その業務の性質に鑑みて特別の注意義務を課したものである。この規定は、特定の地位や身分にある者を狙い撃ちにして差別するものではなく、いかなる地位・身分にある者であっても、一定の業務に従事する者であれば等しく適用される。また、業務の種類によって取り扱いに差を設けているわけでもない。したがって、一定の業務に従事しているという事実は刑法上の身分(属性)ではあるが、憲法14条が禁じる社会的身分に基づく差別には当たらないと解される。
結論
刑法211条は憲法14条に違反しない。したがって、被告人の上告は棄却される。
実務上の射程
業務上過失致死傷罪の合憲性を明確に肯定した判例である。司法試験においては、法の下の平等(憲法14条1項)の論点において、加重処罰の合理性が問題となる際の先例として活用できる。特に、本判決は「社会的身分」の定義を限定的に解し、職務上の作為に伴う法的義務の加重は合理的な区別であるとする論理を示している。
事件番号: 昭和30(あ)480 / 裁判年月日: 昭和32年3月26日 / 結論: 棄却
刑法第二一一条は憲法第一四条に違反しない。