一 第一審判決判示第一前段の被告人の所為が有印公文書偽造罪にあたるとした原判決の判断は正当である。 二 (第一審判決判示第一前段の要旨)被告人は昭和三四年一二月八日付神奈川県公安委員会がAに発行した小型自動四倫運輪免許一通をほしいままに、同免許証の氏名欄の「A」、生年月日欄の「大正15・11・19」、本籍欄の「栃木県真岡市ab」、住居欄の「c町de」の各記載部分をインク消しで抹消し、その該当欄に氏名「B」生年月日「昭和11・5・14」、本籍「神奈川県中郡c町f」、住居「c町gh」と、それぞれ万年筆で記入し、さらに写真欄のAの写真を剥ぎ、自己の写真に鉄筆を用いて「神奈川県」の打ち出し印が押された如く型をつけたうえ、これに同欄に貼りつけ、神奈川県公安委員会の記名押印ある自己宛の小型自動四輪運転免許証一通を作成したものである。
有印公文書偽造罪の成否。
刑法155条1項
判旨
公務員でない者が、公務員の印影を冒用して虚偽の公文書を作成する行為は、公文書偽造罪(刑法155条1項)を構成する。
問題の所在(論点)
公務員でない者が、公務員の印影を冒用して文書を作成する行為が、有印公文書偽造罪(刑法155条1項)に該当するか。
規範
公文書偽造罪(刑法155条1項)の成立には、作成権限のない者が、公務所または公務員の印章もしくは署名を使用して、公務所または公務員の作成すべき文書を作成することが必要である。作成権限の有無は、当該文書の作成に関する法的な権限の有無によって判断される。
重要事実
被告人は公務員ではない一般人であったが、第一審判決によれば、公務員の印影を冒用し、あたかも公務員がその職務上作成したかのような外観を備えた公文書を偽造した。原審はこの行為について有印公文書偽造罪の成立を認めたため、被告人側が法令違反を理由に上告した。
事件番号: 昭和55(あ)1858 / 裁判年月日: 昭和56年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】作成権限のない者が他人の名義を冒用して文書を作成する行為は、たとえその内容が真実であっても、文書の成立の真正を偽るものとして有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立する。 第1 事案の概要:本件において、被告人は、正当な作成権限を有していないにもかかわらず、他人の氏名(有印)を用いて私文書を作成…
あてはめ
被告人は公務員ではなく、公務員の名称を用いて公文書を作成する権限を有していない。それにもかかわらず、公務員の印影を冒用して文書を作成した行為は、作成権限のない者が他人の名義(公務員名義)を冒用して文書を作成したといえる。したがって、形式的作成権限を欠く以上、偽造にあたると評価される。
結論
被告人の所為は有印公文書偽造罪にあたるとした原判決の判断は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
本決定は、公務員以外の者による公文書偽造の成立を簡潔に肯定している。答案上は、作成権限のない者が他人名義を冒用するという「偽造」の定義に忠実にあてはめを行う際の根拠となる。特に「作成権限の逸脱」や「名義の冒用」が争点となる公文書偽造事案において、結論の正当性を裏付ける判例として活用できる。
事件番号: 昭和54(あ)1613 / 裁判年月日: 昭和56年4月8日 / 結論: 棄却
交通反則切符中の供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和62(あ)713 / 裁判年月日: 昭和62年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交通事件原票の供述書欄に他人の氏名を冒書して他人名義の供述書を作成し、これを警察官に提出する行為は、不利益な供述を強要するものとはいえず、有印私文書偽造罪および同行使罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、交通違反の際に作成される交通事件原票の供述書欄において、自己の氏名ではなく他人の氏名を書…
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…