判旨
公職選挙法221条3項1号にいう「公職の候補者」とは、法律上の届出により候補者の地位を有する者を指し、正式な届出前の「立候補しようとする特定人」は含まれない。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条3項1号に規定される「公職の候補者」に、正式な立候補届出を行う前の「立候補しようとする者」が含まれるか。
規範
公職選挙法221条3項1号の「公職の候補者」とは、同法の規定に基づく正式の立候補届出または推薦届出により、候補者としての法律上の地位を有するに至った者をいう。したがって、未だ正式の届出をしていない「立候補しようとする特定人」は、これに包含されない。
重要事実
被告人Bは、公職の候補者として正式な立候補の届出を行う前に、選挙運動者である被告人Aに対し、自己のための投票取りまとめ等の選挙運動を依頼した。その報酬および費用として金2万円を供与し、いわゆる事前運動を行ったとして公職選挙法違反で起訴された。原審は、被告人Bが正式な届出前であったにもかかわらず、同法221条3項1号(候補者等による買収・利害誘導罪)を適用して処断した。
あてはめ
本件において被告人Bが金銭を供与した時点では、いまだ立候補の正式な届出がなされていなかった。被告人Bは、将来的に候補者になろうとする「立候補しようとする特定人」にすぎず、法律上の届出に基づく「公職の候補者」としての地位を有していたとは認められない。したがって、被告人Bの行為に同法221条3項1号を適用することは、構成要件の解釈を誤ったものといえる。
結論
被告人Bは公職選挙法221条3項1号の「公職の候補者」に該当しない。もっとも、その行為は同法221条1項1号(単純買収罪)等には該当するため、原判決を破棄し、当該条文を適用して懲役2月・執行猶予2年に処する。
実務上の射程
選挙犯罪における身分犯的要素の解釈を示す。同法221条3項の加重処罰規定は「候補者」という特定の地位にあることを要件とするため、文言の厳格解釈に基づき届出後の者に限定される。届出前の買収行為は、3項1号ではなく1項1号(一般の買収罪)の対象として処理すべきであるという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和35(あ)1432 / 裁判年月日: 昭和35年12月23日 / 結論: 破棄自判
公職選挙法第二二一条第三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた者をいうものと解すべきであり、今だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当する。