一 公職選挙法二二一条三項一号にいう「公職の候補者」とは、同法の規定による正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた者をいい、立候補を予定しているが、まだ正式の届出をしていない者を含まないと解すべきであつて、このことは、すでに当裁判所の判例とするところである(昭和四一年一二月二二日第一小法廷判決、裁判集刑事一六一号六六九頁参照。なお、その他判例集一四巻二号一七〇頁、同巻一四号二二二一頁参照)。 二 法令適用の誤りの結果処断刑の範囲に差異を来していても、その一事をもつて刑訴法四一一条一号を適用して判決を破棄すべきものではない。
一 公職選挙法二二一条三項一号にいう「公職の候補者」の意義 二 法令適用の誤りの結果処断刑の範囲に差異を来している場合と刑訴法四一一条一号適用の要否
公職選挙法221条3項1号,刑訴法411条1号
判旨
公職選挙法221条3項1号にいう「公職の候補者」とは、同法の規定による正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至った者を指し、立候補予定者は含まれない。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条3項1号にいう「公職の候補者」の意義および、正式な立候補届出前の「立候補予定者」がこれに含まれるか。また、法令適用の誤りが判決に影響を及ぼし、破棄を要する「著しく正義に反する」事態(刑訴法411条1号等)といえるか。
規範
公職選挙法221条3項1号の「公職の候補者」の意義について、判例は、同法の規定に基づく正式な立候補届出または推薦届出がなされることによって、法的に候補者としての地位を確定的に取得した者に限定されると解する。したがって、主観的に立候補の意思を有し、客観的に立候補を予定している状態にあるに過ぎない者(立候補予定者)はこれに含まれない。
重要事実
被告人Aは、選挙において正式な立候補届出を行う前の段階で、買収等の選挙犯罪に該当する行為(判示第一および第三の各所為)を行った。第一審判決は、この行為に対し公職選挙法221条1項1号・5号のみならず、同条3項1号をも適用して処断し、罰金3万円を科した。原判決もこの判断を維持したが、被告人Aは当該行為時点ではまだ正式な届出を行っておらず、立候補を予定している段階であった。
あてはめ
被告人Aが買収行為を行った時点は「正式の立候補届出をする以前」であることが明らかである。そうであれば、Aは同条3項1号にいう「公職の候補者」には該当せず、本来は同条1項のみを適用すべきであった。第一審および原審が同条3項を適用した点には法令適用の誤りがある。しかし、実際に科された罰金3万円という刑は、本来適用されるべき正しい処断刑の範囲内にある。犯罪事実の性質、記録上の情状、選挙権の停止期間の短縮状況等を総合考慮すれば、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
公職の候補者とは正式な届出をした者をいい、立候補予定者は含まれない。本件では法令適用の誤りがあるが、量刑が適正範囲内であるため、判決を破棄するには及ばない(上告棄却)。
実務上の射程
公職選挙法上の「候補者」の定義を厳格に解釈した重要判例である。答案上では、罪刑法定主義の観点から「候補者」と「候補者になろうとする者」の区別を論ずる際の根拠となる。また、刑事訴訟法上の「著しく正義に反する」かどうかの判断において、処断刑の範囲内であれば直ちに破棄事由とはならないという実務上の運用例としても参照できる。
事件番号: 昭和34(あ)1190 / 裁判年月日: 昭和35年2月23日 / 結論: その他
公職選挙法第二二一条第三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとずく正式な立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた者をいうものと解すべきであり、今だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当する。