判旨
公職選挙法221条3項にいう「公職の候補者」には、正式な立候補届出前において立候補を予定しているに過ぎない特定人は含まれない。したがって、届出前の金員供与等については同法221条1項が適用されるべきであり、同条3項を適用した原判決には法令の解釈適用の誤りがある。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条3項に規定される「公職の候補者」の範囲に、正式な立候補の届出を行う前の「立候補しようとする特定人」が含まれるか。
規範
公職選挙法221条3項(候補者等に対する利害誘導罪等の加重規定)の適用対象となる「公職の候補者」とは、公職選挙法の規定に従って正式に立候補の届出を済ませた者を指す。未だ正式な届出のない、いわゆる「立候補しようとする特定人」はこれに包含されない。
重要事実
被告人Aは、選挙の正式な立候補届出前において、選挙人に対し金員を供与した。第一審判決および原判決は、この立候補届出前における金員供与の事実に対し、公職選挙法221条3項(候補者による買収等)を適用し、刑法45条等の併合罪加重を適用して処断した。これに対し、被告人側が法令の解釈適用について争ったものである。
あてはめ
本件において、被告人Aが金員を供与した時点では、正式な立候補の届出はなされていなかった。公職選挙法221条3項は「候補者」という身分に基づく加重処罰を定めたものであるところ、同条の「候補者」に届出前の者を含むと解することは、罪刑法定主義の観点からも許されない。したがって、立候補届出前の行為については、一般の買収罪を定める同法221条1項1号を適用すべきである。原判決が、届出前の事実に対して同条3項を適用したのは、法令の解釈適用を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすことが明らかである。
結論
被告人Aについて、原判決及び第一審判決を破棄する。正式届出前の金員供与については公職選挙法221条1項1号を適用し、他の余罪と併合罪として処断した上で、懲役10月(執行猶予3年)に処する。
実務上の射程
選挙犯罪における身分犯的加重規定(公選法221条3項)の「候補者」の定義を厳格に解した射程の長い判例である。答案上は、罪刑法定主義(類推解釈の禁止)の観点から、「候補者」や「当選人」といった法的地位が発生する時期を画する基準として用いる。立候補届出前の「事前運動」としての買収は1項が適用され、届出後の行為が3項の対象となることを区別して論述する必要がある。
事件番号: 昭和35(あ)1432 / 裁判年月日: 昭和35年12月23日 / 結論: 破棄自判
公職選挙法第二二一条第三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた者をいうものと解すべきであり、今だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当する。