なお職権をもつて調査するに、当裁判所の判例(昭和三四(あ)第一一九〇号同三五年二月二三日第三小法廷判決、刑集一四巻2号一七〇頁、昭和三五年(あ)第一四三二号同年一二月二三日第二小法廷判決、刑集一四巻一四号二二二一頁)によれば、公職選挙法第二二一条第三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての法律上の地位を有するに至つた者をいうのであつて、未だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解すべきところ、原判決の支持した第一審判決は、判示第一の(1)において選挙告示前であり従つて立候補の正式届出前であること明らかな昭和三五年五月二三日における金員供与の事実を認定しながら、これに対する法令の適用として同条第三項、第一項第三号を掲げたのは、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右誤りを看過した原判決をまた違法あるに帰するけれども、被告人のその余の各所為はいずれも同条第三項、第一項第三号もしくは第五号に該当し、同条第三項の刑を基準として併合罪の加重をすべきであるから、結局右違法は判決に影響を及ぼさず、刑訴第四一一条第一号を適用すべきものとは認められない。
刑訴法第四一一条第一号にあたらない事例―公職選挙法第二二一条第三項の解釈適用の誤り。
刑訴法411条1号,公職選挙法221条1項3号,公職選挙法221条3項
判旨
公職選挙法221条3項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定に基づく正式な立候補届出または推薦届出により法律上の地位を有するに至った者を指し、未だ届出をしていない「立候補しようとする特定人」は含まれない。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条3項に規定される「公職の候補者」の意義が問題となる。特に、正式な届出を済ませる前の「立候補しようとする特定人(立候補予定者)」が、同項の主体または客体に含まれるか否かが争点となった。
規範
公職選挙法221条3項の「公職の候補者」の意義について、判例は、同法の規定に基づく正式な立候補届出または推薦届出の手続を経て、候補者としての法律上の地位を有効に取得した者に限定されると解する。したがって、主観的に立候補の意思を有し、あるいは客観的に立候補の準備を進めている段階の者(いわゆる立候補予定者)は、これに含まれない。
重要事実
被告人は、選挙告示前であり、いまだ立候補の正式な届出がなされていない昭和35年5月23日に、金員を供与した。第一審判決および原判決は、この事実に対し公職選挙法221条3項(候補者等に対する買収罪)を適用して有罪とした。被告人が上告したところ、最高裁は職権により当該規定の適用範囲を検討した。
あてはめ
本件における金員供与が行われた昭和35年5月23日は、選挙告示前であり、立候補の正式な届出がなされる前の時点であった。判例の規範に照らせば、この時点での当該人物は、いまだ同法上の「公職の候補者」としての法律上の地位を取得していない。したがって、届出前の「立候補しようとする特定人」に対する行為、またはその者による行為について、同条3項を適用することは法の解釈を誤ったものといわざるを得ない。
結論
立候補届出前の者は同法221条3項の「公職の候補者」に含まれない。ただし、本件では他の余罪において同条同項が成立し併合罪加重がなされるべきであるため、原判決の法令適用誤りは判決に影響を及ぼさず、上告は棄却された。
実務上の射程
罪刑法定主義の観点から「公職の候補者」を限定的に解釈した重要な判例である。答案上では、公職選挙法違反の成否が問われる際、行為時の「届出」の有無を確認し、主体・客体適格を判定する基準として用いる。立候補予定者の段階での買収については、同条1項(買収及び利害誘導罪)等の他項の成否を別途検討する必要がある。
事件番号: 昭和35(あ)1432 / 裁判年月日: 昭和35年12月23日 / 結論: 破棄自判
公職選挙法第二二一条第三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた者をいうものと解すべきであり、今だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当する。