一 公職選挙法第二二一条第一項第一号の供与申込罪は、同号所定の目的をもつて相手方に対し、金品等を供与する意思を表示し、該意思が相手方に到着することにより成立するものであつて、右供与の意思表示は明示たることを要せず、その意思あるものと認められる金品等提供の方法でこれをなすことを妨けず、又右意思表示の到達とは、相手方自信が直接これを受けて了知する場合は勿論、相手方において了知し得べき客観的状態に置かれたときもこれに包含されるものと解すべきである。 二 立候補届出前に個別訪問をなし、その際金品等の供与又は供与の申込をなしたときは、戸別訪問と事前運動並びに供与又は供与の申込は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であり、右戸別訪問は包括一罪であるから、結局刑法第五四条第一項前段、第一〇条により全部一罪として最も重い供与又は供与の申込罪の刑に従い処断すべきである。
一 公職選挙法第二二一条第一項第一号の「供与の申込罪」 二 立候補届出前に戸別訪問をなし、その際金品等の供与又は供与の申込をなした所為に対する適条。
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法129条,公職選挙法138条,公職選挙法239条,刑法54条,刑法10条
判旨
公職選挙法221条3項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定に基づく正式な立候補の届出等により候補者としての地位を有するに至った者を指し、いまだ正式な届出をしていない「立候補しようとする特定人」は含まれない。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条3項にいう「公職の候補者」に、正式な立候補届出を行う前の「立候補しようとする特定人」が含まれるか。同条1項の「公職の候補者となり、又はなろうとする者」との対比における文言解釈が問題となる。
規範
公職選挙法221条3項(買収罪等における加重規定)にいう「公職の候補者」の意義については、同法の規定に基づく正式の立候補届出又は推薦届出により候補者としての地位を有するに至った者をいうと解するのが相当である。したがって、届出前の段階にある、いわゆる「立候補しようとする特定人」は、同条項の主体には該当しない。
重要事実
被告人Aは、昭和34年4月23日施行の選挙に際し立候補して当選した者であるが、その告示前である同年4月2日に、自己の当選を得る目的で戸別訪問、金品の供与及びその申込みを行った。第一審及び原審は、告示前で正式な届出前であるAの行為につき、同人が「立候補しようとする特定人」であったことをもって、公職選挙法221条3項の「公職の候補者」にあたるとして加重処断した。
あてはめ
本件において、被告人Aが金品の供与等を行ったのは、選挙の告示前であり、正式な立候補届出を行う前の段階であった。公職選挙法221条3項は「公職の候補者」と限定的に規定しており、同条1項のように「なろうとする者」を明示していない。そうすると、被告人Aは行為当時、いまだ正式な届出による候補者の地位を有しておらず、単なる「立候補しようとする特定人」にすぎないため、同条3項の主体には該当しない。したがって、同条項を適用した原判決等には法令の解釈適用の誤りがある。
結論
被告人Aを「公職の候補者」に該当するとした原判決を破棄する。Aの行為は公職選挙法221条1項1号等には該当するが、同条3項の加重規定を適用することはできない。
実務上の射程
罪刑法定主義の観点から、処罰範囲(特に加重規定)を文言の通常の意味を超えて拡張することを否定した事例。公職選挙法上の他の規定においても「候補者」と「なろうとする者」は厳格に区別されており、条文解釈の基本姿勢を示すものとして重要である。
事件番号: 昭和35(あ)2453 / 裁判年月日: 昭和36年5月30日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】公職選挙法221条3項にいう「公職の候補者」とは、法律上の届出により候補者としての地位を有する者を指し、立候補届出前の「立候補しようとする特定人」は含まれない。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和34年4月30日施行の町議会議員選挙に際し、立候補の決意をしたものの、正式な立候補届出前の段階において…