判旨
共謀共同正犯の成立には、共謀者間で犯罪の具体的計画につき意思の合致があることを要するが、包括的な命令であっても、それに基づき順次共謀が遂げられれば共謀の成立を妨げない。また、共謀の一部に「殺傷もやむを得ない」という未必的な認識が含まれる場合であっても、殺人の共謀として認めることができる。
問題の所在(論点)
首謀者が配下に対して「襲撃・殺傷」という包括的な命令を出し、細部を委ねたに過ぎない場合であっても、実行行為者との間に殺人罪の共謀(刑法60条、199条)が成立するか。特に、不特定の者を対象とする未必的な殺意を含む共謀の可否が問題となる。
規範
刑法60条の共同正犯が成立するためには、二人以上の者が特定の犯罪を行うことについて共同して実行する意思(共謀)が必要である。この共謀は、必ずしも全員が同時に一堂に会して成立する必要はなく、順次伝達される形式(順次共謀)であっても足りる。また、共謀の内容は、犯罪の具体的細部まで確定している必要はなく、犯行の目的や態様について包括的な合意があり、細部を他の共謀者に委ねる形であっても、その意思の範囲内において共謀の成立が認められる。
重要事実
暴力団組長である被告人Jは、対立団体の幹部らによる仲裁話を断り、配下の被告人Hに対し「K会幹部を襲撃して殺傷するように」と命令した。JとHは、K会会員を殺害するのも止むを得ないとの意思を通じ、細かな実行方法はHに一任された。その後、HはL組事務所にて他の組員らにJの意向を伝え、共にK会幹部を襲撃殺傷する旨の共謀を遂げた。さらに、Hと被告人Bとの間では「身柄を拉致し、応じないときはその場で殺傷するもやむを得ない」との具体的共謀がなされ、実際の犯行(殺人未遂等)に至った。
あてはめ
被告人Jは、Hに対して「襲撃して殺傷せよ」という明確な殺意を伴う命令を発しており、これを受けたHとの間に殺害も辞さないという意思の合致(共謀)が認められる。この命令は「包括的」ではあるが、H以下の組員が具体的な計画(拉致・殺傷)を立てる際のリソースおよび動機となっており、Jの意向に沿ったものである。したがって、JとHの共謀に基づき、HがBらと具体的合意を形成した過程は「順次共謀」として論理的に整合する。殺害の対象や方法に未必的な要素が含まれていても、Jが発した殺傷の包括的命令の範囲を逸脱するものではないため、Jについても殺人未遂罪の共謀共同正犯としての責任を免れない。
結論
事件番号: 昭和58(あ)531 / 裁判年月日: 昭和59年3月6日 / 結論: 棄却
謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体が未必的なものであつたとしても、実行行為の意思が確定的であつたときは、いわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立に欠けるところはない。
被告人Jと他の共犯者との間に殺人罪の共謀の成立を認めた原判決に判理の誤りはない。被告人を殺人未遂等の共謀共同正犯とする。
実務上の射程
組織的犯罪における首謀者の責任を問う際の重要判例である。「殺傷しろ」という概括的な指示であっても、配下がその趣旨を具体化して実行した場合には、首謀者に共謀共同正犯が成立することを示している。答案上は、順次共謀の論証において、包括的指示が具体的計画に結びついている点を指摘する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和51(あ)931 / 裁判年月日: 昭和51年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共謀の事実、及びその共謀に基づく実行行為が必要であり、構成要件に該当する事実を共同して実現する意思の連絡が認められれば、実行行為の一部を自ら分担しない者であっても刑法60条の正犯としての責任を負う。 第1 事案の概要:被告人Aおよび被告人Bを含む複数名が、特定の犯罪(本件各…
事件番号: 昭和26(れ)1847 / 裁判年月日: 昭和27年2月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯が成立するためには、共謀者の一人が共謀に基づいて犯罪を実行した場合には、実行行為に加担しなかった者も、その結果について共同正犯としての責任を負う。 第1 事案の概要:被告人A、B、C、Dらは、特定の犯罪を遂行することを互いに合意(共謀)した。その後、この共謀に基づき、メンバーの一部が実…
事件番号: 昭和56(あ)1004 / 裁判年月日: 昭和56年12月21日 / 結論: 棄却
謀議された計画の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、そのような殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であつたときは、殺人の故意の成立に欠けるところはない。
事件番号: 昭和42(あ)3021 / 裁判年月日: 昭和43年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に影響を及ぼさない軽微な事実誤認があっても、その余の証拠により共謀関係が認められる場合には、有罪判決を維持することができる。 第1 事案の概要:被告人Fは、他の相被告人らと本件犯行について共謀したとして起訴された。原判決には、第一審判決が挙げた証拠では認定できない事実を一部引用している箇所があ…