謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体が未必的なものであつたとしても、実行行為の意思が確定的であつたときは、いわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立に欠けるところはない。
謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていた場合といわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立
刑法38条1項,刑法60条,刑法199条
判旨
共謀共同正犯における殺意は、殺害を一定の事態(被害者の抵抗等)の発生にかからせていたとしても、実行行為を遂行させようとする意思が確定的であれば、未必の故意として成立する。
問題の所在(論点)
殺人の共謀において、殺害の実行が「被害者の対応いかん」という条件付きであり、かつ被告人の犯意が未必的なものである場合に、共謀共同正犯としての殺意が認められるか。刑法38条1項及び60条の適用のあり方が問題となる。
規範
共謀共同正犯者において、謀議の内容が「被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせている」ものであり、かつ犯意自体が未必的なものであったとしても、その殺害計画を伴う「実行行為を遂行させようとする意思」が確定的であるときは、殺人の故意(未必の故意)の成立を妨げない。
重要事実
暴力団の舎弟頭である被告人は、共犯者らと貸金問題解決のため被害者を強制連行することを企てた。当初は話し合いの余地も考えていたが、共犯者らが殺害も辞さない覚悟であることを察知し、現場到着時には「応対が悪いときはその後の進展を共犯者らに委ねる」旨を表明した。その後、現場で共犯者が刺身包丁で突き刺す等の暴行を加える際にも、指示を与えたり制止せず容認したりした。原審はこれらを総合し、殺人の未必の故意を認めた。
事件番号: 昭和51(あ)931 / 裁判年月日: 昭和51年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共謀の事実、及びその共謀に基づく実行行為が必要であり、構成要件に該当する事実を共同して実現する意思の連絡が認められれば、実行行為の一部を自ら分担しない者であっても刑法60条の正犯としての責任を負う。 第1 事案の概要:被告人Aおよび被告人Bを含む複数名が、特定の犯罪(本件各…
あてはめ
被告人は指揮者の地位にあり、現場到着時点で「事態の進展を共犯者の行動に委ねる」と意思表明している。この時点において、殺害の実行自体は被害者の抵抗という客観的事態の発生にかかっていた(条件付であった)としても、共犯者に実行行為を遂行させようという被告人自身の意思そのものは確定的といえる。また、実際の加害行為を制止せず容認していた事実は、死の結果発生を容認する未必の故意を裏付けるものである。したがって、確定的な実行意思に基づく未必の故意が認められる。
結論
被告人には共謀共同正犯としての殺人の未必の故意が成立する。
実務上の射程
共謀段階で殺意が流動的であっても、実行段階で「部下に任せる」等の形で実行を確定的に容認・指示していれば、未必の故意を肯定できる。予備的・条件的な謀議が行われる実務上の暴力団犯罪等において、故意の認定範囲を画定する際の重要な指標となる。
事件番号: 昭和56(あ)1004 / 裁判年月日: 昭和56年12月21日 / 結論: 棄却
謀議された計画の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、そのような殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であつたときは、殺人の故意の成立に欠けるところはない。
事件番号: 昭和38(あ)2921 / 裁判年月日: 昭和39年11月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共謀者間で犯罪の具体的計画につき意思の合致があることを要するが、包括的な命令であっても、それに基づき順次共謀が遂げられれば共謀の成立を妨げない。また、共謀の一部に「殺傷もやむを得ない」という未必的な認識が含まれる場合であっても、殺人の共謀として認めることができる。 第1 事…
事件番号: 昭和56(あ)897 / 裁判年月日: 昭和59年4月24日 / 結論: 破棄差戻
殺人教唆等の公訴事実についての唯一の直接証拠である被教唆者の検察官に対する供述調書の証拠価値に疑問を容れる余地がないとはいえず、被告人のアリバイの成否について幾多の疑問が残されているのに(判文参照)、被告人を有罪とした原判決は、刑訴法四一一条一号、三号により破棄を免れない。
事件番号: 平成18(あ)1124 / 裁判年月日: 平成21年10月19日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】暴力団の抗争において、配下組員が対立組織の会長を殺害した際、上位組織の組長が殺害計画を事前に認識し、これを当然のこととして容認(共謀)していたと推認される場合には、当該組長は殺人罪の共同正犯としての責任を免れない。 第1 事案の概要:1.対立組織との間で激しい抗争状態にあり、最高幹部が襲撃される等…