謀議された計画の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、そのような殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であつたときは、殺人の故意の成立に欠けるところはない。
現実の殺害行為を一定の事態の発生にかからせていた場合と殺人の故意の成立
刑法38条1項,刑法60条,刑法199条
判旨
共謀時に殺害の実行を一定の事態の発生にかからせていたとしても、殺害の計画を遂行しようとする意思が確定的であり、結果を認容していれば、故意の成立に欠けるところはない。
問題の所在(論点)
殺害の実行がある事態の発生を条件としている場合(条件付故意)、刑法上の故意(殺人罪)が認められるか。
規範
故意とは、罪を犯す意思(刑法38条1項)を指し、客観的構成要件に該当する事実の認識・認容をいう。実行行為が一定の条件(特定の事態の発生等)に依存する場合であっても、その条件が成就した際に計画を遂行しようとする意思そのものが確定的であり、かつ結果を認容しているのであれば、故意(いわゆる条件付故意)の成立は否定されない。
重要事実
被告人は、共犯者A・Bとの間で、被害者らが特定の場所に押し掛けたり喧嘩になったりする事態になれば被害者を殺害してもやむを得ないとして、殺害の共謀を遂げた。殺害を実行すべき具体的な事態の判断は、現場に赴く者の状況判断に委ねられていた。
事件番号: 昭和58(あ)531 / 裁判年月日: 昭和59年3月6日 / 結論: 棄却
謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体が未必的なものであつたとしても、実行行為の意思が確定的であつたときは、いわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立に欠けるところはない。
あてはめ
被告人は、被害者らが押し掛ける等の事態が発生した場合には殺害することを「やむなし」として認容していた。殺害計画の内容自体は事態の発生にかからせているが、そのような計画を遂行しようとする被告人の意思そのものは確定的であったといえる。したがって、発生可能性のある事態に対応した確定的な認容がある以上、故意に欠けるところはない。
結論
被告人に殺人の故意が認められる。
実務上の射程
共謀共同正犯の成否や、未必の故意と条件付故意が重なる事案において、主観的態様の検討に用いる。特に「条件が成就しなければ実行しない」という消極的な側面があっても、条件成就時の実行意思が確定的であれば故意を肯定できるとする点で、実務上重要な射程を有する。
事件番号: 昭和36(あ)2709 / 裁判年月日: 昭和37年3月27日 / 結論: 棄却
進んで出撃しようとしたのではなくても、相手が襲撃してきた際にはこれを迎撃し、相手を共同して殺傷する目的をもつて、兇器を準備し身内の者を集合させたときは、刑法第二〇八条の二第二項の罪が成立する。
事件番号: 昭和42(あ)3021 / 裁判年月日: 昭和43年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に影響を及ぼさない軽微な事実誤認があっても、その余の証拠により共謀関係が認められる場合には、有罪判決を維持することができる。 第1 事案の概要:被告人Fは、他の相被告人らと本件犯行について共謀したとして起訴された。原判決には、第一審判決が挙げた証拠では認定できない事実を一部引用している箇所があ…
事件番号: 昭和51(あ)931 / 裁判年月日: 昭和51年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共謀の事実、及びその共謀に基づく実行行為が必要であり、構成要件に該当する事実を共同して実現する意思の連絡が認められれば、実行行為の一部を自ら分担しない者であっても刑法60条の正犯としての責任を負う。 第1 事案の概要:被告人Aおよび被告人Bを含む複数名が、特定の犯罪(本件各…
事件番号: 昭和38(あ)2921 / 裁判年月日: 昭和39年11月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共謀者間で犯罪の具体的計画につき意思の合致があることを要するが、包括的な命令であっても、それに基づき順次共謀が遂げられれば共謀の成立を妨げない。また、共謀の一部に「殺傷もやむを得ない」という未必的な認識が含まれる場合であっても、殺人の共謀として認めることができる。 第1 事…