(裁判官山田作之助同城戸芳彦の少数意見)多数意見は、第一審判決が懲役刑の執行猶予を言渡した場合に、控訴審がなんら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、ただちに懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴法第四〇〇条但書に違反するものではないとした昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月一八日大法廷判決(刑集一〇巻七号一一七三頁)および同旨のその他の大法廷判決を踏襲しているのであるが、この多数意見には左祖できない。刑事裁判の要諦は、犯罪事実の認定と刑の量定との三点に尽きる。この犯罪事実の認定と刑の認定とは、公開の法廷で裁判官みずから直接に証人その他の証拠を取り調べ、なおこれ等に対する被告人の意見弁解をきいて得た心証によつてのみ、はじめてできるのであつて、裁判官がこれ等について直接の取り調べをせず、被告人の意見弁解もきかないで、書面審理のみによつてはできるものではないのである。この理は刑事裁判の本質からする当然の帰結であつて、いやしくも裁判官がみずから犯罪事実を認定し、刑を量定する以上、それが第一審であると控訴審(第一審判決を破棄して自判する場合)であると、その理を異にするいわれはない。
禁錮刑の執行猶予を言渡した第一審判決を控訴審が書面審理のみにより破棄しみずから実刑の言渡をする場合と刑訴法第四〇〇条但書。
刑訴法400条
判旨
控訴裁判所が事実の取調をすることなく、第1審判決よりも重い刑を科すことは、刑事訴訟法400条但書および憲法31条、39条に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において、事実の取調をせずに第1審より重い刑を科すことが、憲法31条(適正手続)および憲法39条(二重の危険の禁止)に抵触するか。また、刑訴法400条但書との関係が問題となる。
規範
検察官が下級審の有罪判決に対して上訴し、より重い刑の判決を求めることは、被告人を憲法39条後段の二重の危険にさらすものではない。また、控訴審が独自の事実取調を行わず、第1審の証拠および訴訟記録のみに基づき自判して第1審より重い刑を科すことは、刑訴法400条但書に反せず、憲法31条等の適正手続にも違反しない。
事件番号: 昭和44(あ)908 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴されていない犯罪事実であっても、それが本件起訴にかかる犯罪事実の情状として認定され、量刑の資料とされるにすぎない場合は、憲法31条、39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事起訴された事案において、原判決が起訴されていない一定の事実を認定した。これに対し弁護側は、当該事実を量刑の資料…
重要事実
第1審の有罪判決(懲役刑・執行猶予付)に対し、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた事案。控訴審は、独自の事実取調を行うことなく、第1審で取り調べた証拠および訴訟記録のみに基づき、量刑不当として第1審判決を破棄し、実刑判決を言い渡した。被告人側は、これが直接審理主義の観点から憲法31条に違反し、また二重の危険の禁止を定めた憲法39条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁の判例法理によれば、上訴制度は一連の継続した手続であり、検察官の上訴により上級審でより重い刑を求めることは二重の危険には当たらない。また、刑訴法400条但書は、控訴裁判所が記録に基づき破棄自判することを認めており、量刑の判断についても、第1審の証拠関係から不当と判断できる場合には、必ずしも新たな事実取調を要しない。本件においても、従前の判例に照らし、事実取調なしでの重刑科刑は適法な手続の範囲内と解される。
結論
本件控訴審の判断は合憲かつ適法であり、第1審より重い刑を科すことに手続上の違法はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格を前提に、量刑不当による破棄自判の適法性を認める実務を支える判例である。ただし、反対意見が示すように、事実認定の変化を伴う場合には直接審理の要請が高まるため、あてはめにおいては単なる量刑評価の変更か、前提事実の変更を伴うかを区別して検討する必要がある。
事件番号: 昭和28(あ)2859 / 裁判年月日: 昭和30年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において量刑不当を理由に第一審判決を破棄自判する場合、控訴審は第一審判決の確定した事実に対して法律を適用すれば足り、改めて事実を摘示することを要しない。 第1 事案の概要:被告人が第一審判決を受けた後、控訴審において第一審判決の事実認定自体には争いがなかった。弁護人は控訴審において単に量刑不…
事件番号: 昭和29(あ)3598 / 裁判年月日: 昭和30年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事裁判における事実認定において、第一審判決の証拠判断に合理的な理由があり、それを覆すべき証拠がない場合には、控訴審が第一審の認定を正当として維持することは適法である。 第1 事案の概要:被告人が犯行を行ったとする第一審判決に対し、弁護人は証拠判断および事実認定の違法、憲法31条違反、理由の食い違…
事件番号: 昭和47(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和48年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官控訴に基づき、量刑不当を理由に第一審判決を破棄して自判することは、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡された後、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、この検察官控訴を理由が…
事件番号: 昭和45(あ)2582 / 裁判年月日: 昭和46年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が被告人側の証人尋問を行わず、検察官申請の証拠のみに基づき一審の執行猶予判決を破棄して実刑を言い渡すことは、憲法31条および37条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は第一審において執行猶予付の判決を受けたが、控訴審(原審)において検察官が申請した証拠のみが採用・取調べられた。一方で…