判旨
控訴裁判所が被告人側の証人尋問を行わず、検察官申請の証拠のみに基づき一審の執行猶予判決を破棄して実刑を言い渡すことは、憲法31条および37条に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において、被告人側が申請した証人を尋問することなく、検察官側の証拠のみに基づいて第一審の有利な判決(執行猶予)を破棄し、より重い刑(実刑)を科すことが、憲法31条の適正手続および憲法37条の被告人の権利に反しないか。
規範
控訴裁判所における証拠調べの要否は、事実誤認の有無を判断するために必要か否かという観点から決せられる。検察官申請の証拠のみを採用し、被告人・弁護人申請の証人を取り調べないまま、第一審の執行猶予判決を破棄して実刑を言い渡したとしても、それが直ちに憲法31条(適正手続)や37条(証人審問権等)に違反するものではない。
重要事実
被告人は第一審において執行猶予付の判決を受けたが、控訴審(原審)において検察官が申請した証拠のみが採用・取調べられた。一方で、弁護人が申請した証人は採用されなかった。原審はこの手続を経て第一審判決を破棄し、被告人に対し実刑判決を言い渡した。これに対し弁護人は、防御権の侵害等を理由に、当該手続が憲法違反であると主張して上告した。
あてはめ
判決文は過去の大法廷判例(昭和23年6月23日、昭和31年7月18日)を引用し、控訴審における証拠採用の裁量を肯定している。本件においても、裁判所が事実認定や量刑判断のために弁護人申請の証人尋問が必要ないと判断し、提出された証拠資料によって十分な心証を得た上で破棄自判に及んだのであれば、それは裁判所の合理的な訴訟指揮の範囲内である。したがって、検察官側の証拠のみを依拠して実刑を選択したプロセスに憲法上の瑕疵は認められない。
結論
控訴審が弁護人申請の証人を取り調べずに一審の執行猶予を破棄し実刑を言い渡すことは、合憲である。上告棄却。
事件番号: 昭和38(あ)2675 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
(裁判官山田作之助同城戸芳彦の少数意見)多数意見は、第一審判決が懲役刑の執行猶予を言渡した場合に、控訴審がなんら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、ただちに懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴法第四〇〇条但書に違反するものではないとした昭和二七…
実務上の射程
控訴審における証拠調べの必要性に関する裁判所の裁量を認めるものである。答案上は、控訴審が「事後審」としての性格を有すること(刑訴法394条等)を前提に、新証拠の取調べを却下して一審判決を被告人に不利益に変更する場合の適法性を基礎付ける論拠として活用できる。
事件番号: 昭和46(あ)192 / 裁判年月日: 昭和46年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項前段は、被告人が公判審理において証人に尋問し反対尋問する機会を保障するものであり、公判外の供述を証拠とすることを一律に禁止するものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑事被告事件において有罪判決を受けた際、公判期日外における第三者の供述等(伝聞証拠)が証拠として採用されたことに対し…
事件番号: 昭和41(あ)2522 / 裁判年月日: 昭和42年3月15日 / 結論: 棄却
所論は憲法第三八条第一項違反等違憲をいう点もあるが、必ずしも被告人の出頭を要しない控訴審の手続において、刑訴法第二九一条第二項の規定が準用されないことは明白というべきであるから、右違憲の主張は前提を欠く。
事件番号: 昭和40(あ)1241 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、裁判所に対し被告人側の申請にかかる証人を不必要と思われる者まで悉く尋問することや、必要と認めない者まで職権で喚問することを義務付けるものではない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、控訴審において証人Aの喚問を申請したが却下された。また、証人B、C、Dの3名については、被告人側…
事件番号: 昭和47(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和48年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官控訴に基づき、量刑不当を理由に第一審判決を破棄して自判することは、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡された後、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、この検察官控訴を理由が…