弁護人の上告趣意は控訴審の訴訟手続には、被告人が弁護を受ける権利を剥奪または制限した違法があるとして、憲法第三七条第三項違反を主張するが、記録によると、控訴審は昭和三八年六月一九日被告人のための国選弁護人として甲を選任し、同弁護人は同年七月一七日行控訴趣意書を提出している。その後にいたつて、被告人から意思の疏通を欠くとして弁護人改任の上申があつたので、控訴審は同月二五日甲弁護人を解任し、即日乙弁護人を国選弁護人に選任し、同年八月一五日の第一回公判期日には「乙弁護人は甲弁護人名義及び被告人名義の各控訴趣意書に基づき控訴の趣意を陳述し」ている。かくのごとく、乙弁護人は自ら控訴趣意書を提出していないが、控訴趣意書を提出するための最終日の変更その他格別の措置を求めておらず、右第一回公判期日においてなんら異議を留めずして弁論したことについては被告人においても異議のあつた形跡もない。かかる事実関係の下においては所論の被告人の憲法上の権利を侵したことにならないことは、当裁判所昭和三一年(あ)第三八四八号、同三二年六月一九日大法廷判決の趣旨により明白である。それ故、所論違憲の主張は理由がない。
控訴審が被告人から意思の疏通を欠くとして弁護人改任の上申があつたのでさきに選任した被告人のための国選弁護人を解任し即日(控訴趣意書提出最終日経過後)新たに国選弁護人を選任し、同弁護人が異義なく弁論した場合における裁判所の措置と憲法第三七条第三項。
憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴規則236条,刑訴規則238条
判旨
国選弁護人の交代があった場合において、後任の弁護士が自ら控訴趣意書を提出せず、前任者の提出した書面に基づいて弁論を行ったとしても、特段の事情がない限り、被告人の弁護を受ける権利(憲法37条3項)を侵害するものではない。
問題の所在(論点)
国選弁護人の交代があった際に、後任の弁護士が自ら控訴趣意書を提出せず前任者の提出した書面を援用して弁論を行うことが、被告人の弁護を受ける権利(憲法37条3項)を侵害し、訴訟手続の法令違反となるか。
規範
被告人に弁護人との意思疎通を欠く等の事情があり、国選弁護人が交代した場合であっても、後任の弁護士が前任者の提出した控訴趣意書を援用して弁論を行い、かつ提出期限の変更申し立てや異議の留保等を行っていないときは、適法な弁護活動が行われたものと解される。
重要事実
被告人は控訴審において国選弁護人(前任者)を選任され、当該弁護人は控訴趣意書を提出した。その後、被告人は意思疎通の欠如を理由に改任を申し立てたため、裁判所は前任者を解任し、即日後任の国選弁護人を選任した。後任の弁護士は自ら新たな控訴趣意書を提出しなかったが、第一回公判期日において前任者および被告人名義の各控訴趣意書に基づいて陳述した。後任の弁護士は提出期限の延長等の措置を求めず、被告人も公判での弁論について異議を述べていなかった。
あてはめ
本件では、後任の弁護士は自ら控訴趣意書を提出していないものの、公判期日において前任者らの作成した書面を援用して具体的に陳述を行っている。また、当該弁護士は提出期限の変更やその他の格別の措置を求めておらず、第一回公判期日において何ら異議を留めることなく弁論を実施している。さらに、被告人自身もこのような弁護活動の態様について異議を述べた形跡は認められない。したがって、実質的な弁護活動は尽くされており、被告人の憲法上の権利が侵されたとはいえない。
結論
被告人の弁護を受ける権利を剥奪または制限した違法があるとは認められず、憲法37条3項には違反しない。
実務上の射程
国選弁護人の交代時における弁護活動の継続性と有効性を認めた判例である。答案上は、弁護人の交代に伴う控訴趣意書の提出遅滞や未提出が問題となる場面で、前任者の活動を援用し、弁護士側から期限延長の申し出等がない限りは有効な弁護があったと構成する際の根拠となる。
事件番号: 昭和40(あ)2526 / 裁判年月日: 昭和41年11月22日 / 結論: 棄却
本件記録によると、原審が、第一回公判期日を昭和四〇年九月三日と指定し、同年八月三日、国選弁護人として弁護士小野原肇を選任したが、被告人の申請により、右公判期日を同年一〇月一五日に変更し、同年九月三日、被告人が私選弁護人を選任したので、右国選弁護人を解任したところ、同年一〇月四日、被告人から、弁護人の選任、証拠の収集を理…