一 量刑不当を主張している控訴趣意書を提出した私選弁護人が約二ヶ月の余裕を以て通知された第一回公判期日の三日前になつてから病気を理由として、公判期日変更の申請をしても、その病気が既に三ヶ月前に発した乳糜病でなお二ヶ月の安静加療を要するという場合には、右公判期日当日国選弁護人を選任して手続を進めても、特段の異議がない限り弁護権の不法制限とはいえない 二 量刑不当を理由とする控訴趣意書に数種の証明書類が添附されていたというだけでは、その証明書につき事実の取調請求があつたものとはいえない
一 弁護権の不法制限にならない一事例 二 事実の取調請求とは認められない一事例
憲法37条3項,刑訴法276条,刑訴法389条,刑訴法393条1項,刑訴規則179の5
判旨
私選弁護人が病気により期日変更を求めた場合でも、期日指定の2ヶ月前から病状を把握しつつ直前に申請したこと、控訴趣意書の内容が量刑不当のみであること等の事情があれば、期日を変更せず国選弁護人を選任して結審した手続は適法である。
問題の所在(論点)
私選弁護人が病気を理由に公判期日の変更を申し立てた際、裁判所がこれに応じず、国選弁護人を選任して審理を進行・結審させることが、被告人の弁護権(憲法37条3項)を侵害し、刑事訴訟法上の手続違背となるか。
規範
訴訟の遅延を防止し、適正な裁判を迅速に行う観点から、弁護人の出頭不能を理由とする公判期日の変更を認めるか否かは裁判所の合理的な裁量に委ねられる。具体的には、弁護人が欠席に至るまでの経緯、公判期日通知からの期間的余裕、弁論の内容(事実争いの有無)、及び被告人側の異議の有無等を総合的に考慮して判断する。
重要事実
私選弁護人は、昭和30年8月頃から重い全身衰弱の状態にありながら、11月18日の第1回公判期日のわずか3日前に期日変更を申請した。当該期日の通知は2ヶ月以上前になされていた。控訴趣意書には量刑不当の主張があるのみで、事実関係に争いはなく、添付された証明書類についても正式な事実取調べの請求はなされていなかった。原審は申請を認めず、当日国選弁護人を選任して弁論・結審した。被告人は判決言渡期日に出頭したが、一連の手続に異議を述べなかった。
あてはめ
まず、弁護人は2ヶ月以上の余裕をもって期日通知を受けており、自身の病状も事前に把握していたにもかかわらず、直前になって変更申請をした点に手続上の懈怠が認められる。次に、弁論の内容は量刑不当に留まり、事実取調べの必要性も認められないことから、国選弁護人による弁論でも実質的な不利益は少ないといえる。さらに、被告人自身も後に異議を述べておらず、手続の適正が著しく損なわれたとはいえない。したがって、原審の措置は裁量の範囲内である。
結論
原審の手続は違法とはいえず、被告人の弁護権を奪ったものとして憲法37条3項に違反するという主張は理由がない。
実務上の射程
実務上、弁護人の権利(私選弁護人依頼権)と訴訟の迅速な進行の調整が問題となる場面で活用される。弁護人側の不適切な訴訟活動や、審理内容の簡易性がある場合には、裁判所の期日維持・国選選任による進行が正当化されやすいことを示す射程を持つ。答案では、被告人の防御権の実質的な侵害の有無を具体的事実から検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和31(あ)3111 / 裁判年月日: 昭和32年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が弁護人の期日変更申請を却下しても、国選弁護人が控訴趣意書に基づき弁論を行い、裁判所がこれに判断を示している限り、弁護権の不法な制限には当たらない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、控訴審において量刑不当を理由とする控訴趣意書を提出した。原審の第二回公判において、国選弁護人がこの控訴趣意…
事件番号: 昭和32(あ)1514 / 裁判年月日: 昭和32年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護人が適法な公判期日の通知を受けながら正当な理由なく出頭しない場合、裁判所が国選弁護人を選任して審理を進めることは憲法及び刑事訴訟法上適法である。 第1 事案の概要:被告人の原審弁護人は、適法な公判期日の通知を受けていた。しかし、当該弁護人は、何ら正当な理由がないにもかかわらず、指定された公判期…