本件記録によると、原審が、第一回公判期日を昭和四〇年九月三日と指定し、同年八月三日、国選弁護人として弁護士小野原肇を選任したが、被告人の申請により、右公判期日を同年一〇月一五日に変更し、同年九月三日、被告人が私選弁護人を選任したので、右国選弁護人を解任したところ、同年一〇月四日、被告人から、弁護人の選任、証拠の収集を理由として再び公判期日の変更申請がなされ、同月七日、右私選弁護人が辞任したが、原審は、同月一五日公判を開き、当日在廷していた前記小野原弁護士を再び国選弁護人として選任し、同弁護人請求の証拠を却下したうえ、異議なく弁論を修了したことが認められる。 このような場合には、前記私選弁護人が辞任した後、被告人において直ちに他の弁護人を選任するか、または裁判所に対し国選弁護人の選任を請求しなかつたことは、むしろ被告人の懈怠に基づくものというべきであり(昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日大法廷判決、刑集三巻一一号一八五七頁参照)、また、本件は、その内容がさほど複雑というけでもないのであるから、これと前記の経緯とを合わせ考えると、原審が被告人の再度の公判期日変更申請に応じなかつたことをもつて不当とするのは当らず、さらに、さきに本件について、一ケ月以上の期間被告人の国選弁護人の地位にあつた小野原弁護人としては、十分に事件の全貌を把握し得て、被告人の弁護に欠くるところのないものと信じて、直ちに証拠調を請求し、結審について別段の異議を述べなかつたものと推断するのが相当であるから、このような事情の下では、原審の手続は違法とはいえず、違憲(三七条)の主張は、前提を欠く。
弁護権の不法制限とならないとされた事例
憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴法272条,刑訴法289条,刑訴法273条,刑訴法276条,刑訴規則177条,刑訴規則178条,刑訴規則178条の2,刑訴規則178条の4(250条)
判旨
憲法37条3項の弁護人依頼権は、裁判所が被告人に権利行使の機会を与え、その行使を妨げなければ足り、被告人の懈怠や事案の簡明さに照らし、期日変更を認めず国選弁護人を選任して結審した手続に違憲・違法はない。
問題の所在(論点)
被告人が私選弁護人選任等のために求めた公判期日の変更申請を裁判所が却下し、かつての国選弁護人を再任して即日結審した手続が、憲法37条3項の弁護人依頼権を侵害するか。
規範
憲法37条3項前段の弁護人依頼権に関し、裁判所は被告人に対し国選弁護人選任の請求ができる旨を告知する義務まで負うものではない。裁判所が被告人に権利行使の機会を与え、かつその行使を妨げない限り、弁護権の侵害にはあたらない。また、公判期日の変更や弁護人の準備期間の是非は、事案の複雑性や従前の訴訟経過(被告人の懈怠の有無等)に照らして判断される。
重要事実
必要的弁護事件において、裁判所は第一回公判期日を指定し国選弁護人を選任したが、被告人が私選弁護人を選任したため国選を解任し、期日を一度延期した。しかし、延期後の期日の8日前に私選弁護人が辞任した。被告人は再度の期日変更を申請したが、裁判所はこれを認めず期日を開き、以前解任された弁護士を再度国選弁護人に選任した。同弁護人の証拠請求を却下して弁論を終結したため、被告人が弁護権侵害を訴えた事案。
あてはめ
まず、私選弁護人の辞任後、被告人が直ちに他を選任せず国選も請求しなかったことは「被告人の懈怠」に基づく。次に、本件は内容が複雑ではなく、以前の国選・私選弁護士との打合せや準備に「必要な時日の余裕」がなかったとは認められない。さらに、再任された国選弁護人は以前一ヶ月以上同職にあり「事件の全貌を把握」し得た立場であって、同人が証拠却下に対し異議なく弁論を終えた以上、弁護に欠けるところはない。したがって、期日変更を認めなかった原審の措置は正当である。
結論
被告人に弁護権行使の機会は十分に与えられており、その行使が妨げられたともいえないため、憲法37条3項に違反しない。
実務上の射程
被告人側の事情(私選の選任・解任の繰り返し等)による訴訟遅延を防ぐための裁判所の裁量を認める枠組みとして活用できる。特に「権利行使の機会を与え、妨げない」という消極的義務の範囲を画定する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)4531 / 裁判年月日: 昭和28年3月27日 / 結論: 棄却
原審における控訴趣意書提出最終日は昭和二七年七月八日であり、被告人が国選弁護人選任の請求をしたのは同年七月一〇日であつて、之に対し原審が国選弁護人を選任したのは右より約一〇日後の公判期日当日である同年七月二一日であることは所論のとおりである。そして右国選弁護人は右公判当日異議なく既に提出されてあつた被告人本人作成の控訴…
事件番号: 昭和40(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和41年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において私選弁護人が出頭不能となった際、裁判所が職権で国選弁護人を選任して更新手続等を行い、被告人が異議を述べなかった場合、弁護権の侵害(憲法37条3項違反)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人の私選弁護人は控訴審第1、2回公判に出頭し、事実を争わず量刑不当のみを主張する弁論を行った。…