原審における控訴趣意書提出最終日は昭和二七年七月八日であり、被告人が国選弁護人選任の請求をしたのは同年七月一〇日であつて、之に対し原審が国選弁護人を選任したのは右より約一〇日後の公判期日当日である同年七月二一日であることは所論のとおりである。そして右国選弁護人は右公判当日異議なく既に提出されてあつた被告人本人作成の控訴趣意書に基き陳述して弁論を終結したときは憲法三七条違反の問題を生じない。
控訴趣意書提出最終日経過後に国選弁護人選任の請求があつた場合と弁護人の国選時期
刑訴規則236条,刑訴規則178条,刑訴規則250条,憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴法289条
判旨
憲法37条3項前段の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべき権利であり、裁判所は行使の機会を与えその妨害をしなければ足りる。また、国選弁護人の選任請求権がある旨を告知する義務を裁判所に課すものではない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し弁護人選任請求権の告知をせず、また控訴趣意書提出期限後に国選弁護人を選任して弁論を行わせた手続が、憲法37条3項の定める弁護人依頼権に違反するか。
規範
1. 憲法37条3項前段の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りる。 2. 憲法37条3項後段は、被告人に対し弁護人の選任を請求し得る旨を告知する義務を裁判所に課すものではない。 3. 必要的弁護事件の範囲の策定は刑事訴訟法上の問題であり、憲法37条の問題ではない。
重要事実
被告人が原審(控訴審)において控訴趣意書の提出最終日(昭和27年7月8日)を経過した後の7月10日に国選弁護人の選任を請求した。原審は請求から約10日後の公判期日当日(7月21日)に国選弁護人を選任した。選任された弁護人は、公判当日、既に提出されていた被告人本人作成の控訴趣意書に基づき、異議なく陳述して弁論を終結した。
あてはめ
1. 弁護人依頼権(憲法37条3項)の本質は、被告人が自ら権利を行使することにあり、裁判所が積極的に告知を行う義務までは含んでいない。したがって、告知を欠いたとしても権利行使の妨害には当たらない。 2. 本件では、提出期限徒過後の請求に対し、原審は適切に国選弁護人を選任している。弁護人も公判において被告人作成の趣意書に基づき異議なく弁論を行っており、実質的に弁護を受ける機会が確保されているといえる。 3. 刑訴規則178条(照会手続)は憲法上の義務を規定したものではなく、法独自の規定であるため、これに反したとしても直ちに憲法違反とはならない。
結論
裁判所が告知義務を怠った、あるいは選任時期が遅れたとしても、被告人の権利行使が妨げられたとはいえず、憲法37条3項に違反しない。
実務上の射程
被告人に対する権利告知の要否に関する憲法判断の基準を示す。もっとも、現行刑事訴訟法下では告知義務等が手続的に整備されているため、主に憲法上の要請の「最低限度」を論じる際や、手続的瑕疵が憲法違反にまで昇格するかを判断する際の基準として機能する。
事件番号: 昭和30(あ)757 / 裁判年月日: 昭和31年3月22日 / 結論: 棄却
記録に徴すれば、原審裁判所は公訴趣意書提出最終日より後、第1回公判期日の二四日前に弁護人を選任したものであるが、これより先に被告人から詳細な事実誤認、未決勾留日数の本刑通算要求の主張を記載した公訴趣意書が提出されており、右弁護人は被告人と共に原審第一回公判期日に出席して被告人提出の公訴趣意書中の事実誤認の主張のみについ…