一 論旨中には、被告人は原審において弁護人に選任するため公判の続行を求めたが許されず、弁護人を選任する十分な機会もなく弁護人のないままで弁論を終結されたのは憲法に違反するとの主張があるが、記録によると、被告人は本件につき原審に控訴を申立てた後保釈によつて釈放されていたのであるからその機会に弁護人を選任することは十分にできた筈である。のみならず、被告人は原審において裁判所に対し国選弁護人を附することを請求もせず、また被告人自ら弁護人を選任するために公判期日の延期を求めたり証拠調の申請をした形跡は全くない。 二 憲法第三四条前段及び同第三七条第三項前段所定の弁護人に依頼する権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与えその行使を妨げなければいいのであつて、弁護人に依頼する方法及びその費用等についてまで被告人に説示する必要のないことは、当裁判所大法廷判決の示すとおりである。(昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日判決)。
一 弁護人選任の機会を与えたと認むべき事例 二 憲法第三四条前段及び同第三七条第三項前段所定の弁護人に依頼する権利と裁判所の告知義務
旧刑訴法39条,旧刑訴法41条,憲法37条3項,憲法34条前段
判旨
憲法が保障する弁護人に依頼する権利(34条前段、37条3項前段)は、被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人にその権利行使の機会を与え、その行使を妨げなければ足りる。裁判所には、弁護人に依頼する方法や費用等について被告人に説示する義務まではない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し、弁護人に依頼する方法や費用等を説示しなかったことが、憲法34条前段および37条3項前段の保障する弁護人に依頼する権利の侵害に当たるか。
規範
憲法34条前段および37条3項前段に定める弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべき権利である。裁判所は、被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足り、弁護人に依頼する方法や費用等について被告人に説示する義務を負わない。
重要事実
被告人は控訴申し立て後、保釈によって釈放されていた。しかし、原審(控訴審)において、被告人は裁判所に対し国選弁護人の選任を請求せず、自ら弁護人を選任するための公判期日の延期や証拠調べの申請も行わなかった。その後、弁護人がいないまま弁論が終結されたため、被告人は弁護人を選任する十分な機会がなく、弁論が終結されたのは憲法違反であると主張して上告した。
あてはめ
被告人は保釈により釈放されており、弁護人を選任する十分な機会があったといえる。また、被告人自身が国選弁護人の請求や期日延期の申し立てを全く行っていなかった。裁判所としては、被告人の権利行使を妨げておらず、行使の機会自体は十分に存在していたと評価できる。憲法上の権利行使は本人の責任に帰すべきものであり、裁判所が助言や説明を尽くさなかったとしても、権利行使の妨害には当たらない。
結論
原審の手続に憲法違反はなく、弁護人がいないまま弁論を終結したことは適法である。
実務上の射程
刑事訴訟において被告人の権利保障をどこまで裁判所が負担すべきかの限界を示す。特に、私選弁護人の選任や権利行使の手続的教示について、裁判所の消極的な立場を明確にしたものであり、被告人自身の不作為(請求の欠如)がある場合には、手続の合憲性が維持されやすいことを示唆している。
事件番号: 昭和27(あ)4531 / 裁判年月日: 昭和28年3月27日 / 結論: 棄却
原審における控訴趣意書提出最終日は昭和二七年七月八日であり、被告人が国選弁護人選任の請求をしたのは同年七月一〇日であつて、之に対し原審が国選弁護人を選任したのは右より約一〇日後の公判期日当日である同年七月二一日であることは所論のとおりである。そして右国選弁護人は右公判当日異議なく既に提出されてあつた被告人本人作成の控訴…