本件記録によると、被告人は原審裁判所から、昭和二六年一月二六日に控訴趣意書を提出すべき最終日を同年二月二二日と指定した通知を受取り、右期間内に自ら作成した控訴趣意書を提出しており、国選弁護人の選任を裁判所に請求した形跡はないのである。そして原審は本件が必要的弁護事件であるので公判期日の三日前に弁護人を選任し、弁護人は公判期日に出頭して異議なく被告人提出の控訴趣意書に基ずき弁論したものであり、これを目して不当に弁護権を制限したということは当らない。よつて原審の手続には未だもつて所論のような憲法第三七条第三項前段又は後段の違反の廉ありとすることは出来ない。
憲法第三七条第三項に違反しない例
憲法37条3項
判旨
被告人が自ら国選弁護人の選任を請求せず控訴趣意書を提出した後に、裁判所が必要的弁護事件として公判期日直前に弁護人を選任したとしても、弁護人が異議なく弁論を行っている限り、憲法37条3項に反しない。
問題の所在(論点)
被告人が控訴趣意書を自ら提出し、その後に国選弁護人が選任された場合において、弁護人が自ら控訴趣意書を作成・提出する機会がなかったことが、憲法37条3項にいう弁護人依頼権を侵害し、刑事訴訟手続として違憲となるか。
規範
憲法37条3項前段の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、弁護人の選任は原則として被告人の自由意思に委ねられる。また、同項後段は、被告人が自ら弁護人を依頼できない場合に裁判所に対して国選弁護人付記義務の告知を課すものではなく、請求があった場合に弁護人を付せば足りる。したがって、被告人が自ら控訴趣意書を提出し、選任された弁護人が有効に弁論を行った場合には、弁護権の不当な制限には当たらない。
重要事実
被告人は、原審裁判所から控訴趣意書の提出期限の通知を受けたが、期間内に国選弁護人の選任を請求せず、自ら作成した控訴趣意書を提出した。原審は、本件が必要的弁護事件であるため、公判期日の3日前に弁護人を選任した。選任された弁護人は、公判期日に出頭し、被告人が提出した控訴趣意書に基づき、異議なく弁論を実施した。これに対し弁護人は、控訴趣意書提出期限後の選任により弁護人自身が趣意書を作成できなかったことが弁護権の不当な制限に当たると主張して上告した。
あてはめ
被告人は提出期限の通知を受けながら自ら趣意書を提出しており、国選弁護人の選任を請求した形跡はない。裁判所は、必要的弁護事件として公判期日前に弁護人を選任するという職務を履行している。選任された弁護人は、自ら趣意書を作成できなかったとしても、公判期日において被告人作成の趣意書に基づき異議なく弁論を行っており、実質的な弁護活動がなされている。したがって、被告人の自由意思に基づく権利行使の結果として現在の状況が生じたものといえ、裁判所が弁護権を不当に制限した事実はないと解される。
結論
原審の手続に憲法37条3項違反の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
国選弁護人の選任請求権(刑訴法36条)の行使が被告人の意思に委ねられていることを前提に、手続的な遅滞が被告人自身の不作為に起因する場合の弁護権侵害の有無を判断する際の基準となる。実務上は、弁護人が選任後に実質的な準備時間を欠いたまま弁論を強いられた特段の事情がない限り、有効な弁護があったとみなされる傾向を示す射程を有する。
事件番号: 昭和30(あ)757 / 裁判年月日: 昭和31年3月22日 / 結論: 棄却
記録に徴すれば、原審裁判所は公訴趣意書提出最終日より後、第1回公判期日の二四日前に弁護人を選任したものであるが、これより先に被告人から詳細な事実誤認、未決勾留日数の本刑通算要求の主張を記載した公訴趣意書が提出されており、右弁護人は被告人と共に原審第一回公判期日に出席して被告人提出の公訴趣意書中の事実誤認の主張のみについ…