判旨
被告人が私選弁護人を選任すると回答しながら選任しない場合、裁判所が控訴趣意書の作成期間を考慮して国選弁護人を選任することは、被告人の弁護人選任権を妨げない限り適法である。
問題の所在(論点)
被告人が私選弁護人を選任する意向を示しながら選任しない場合に、裁判所が国選弁護人を選任する措置は、被告人の弁護人選任権(憲法37条3項、刑訴法30条等)を侵害するか。
規範
被告人が弁護人の選任を希望しつつも、自ら選任の手続きを怠っている場合において、裁判所が訴訟手続きの遅延を回避し被告人の防御権を確保(控訴趣意書の作成等)するために国選弁護人を選任する措置は、実質的に被告人の弁護人選任を妨げるような事情がない限り、憲法上の弁護人依頼権や刑事訴訟法の規定に反しない。
重要事実
被告人は原審における弁護人選任照会に対し、私選弁護人を選任する(あるいは既に選任している)旨を回答していた。しかし、被告人はその後も自ら実際に選任手続きを完了させなかった。これに対し原審裁判所は、控訴趣意書の提出期限等の作成期間を考慮し、職権で国選弁護人を選任した。
あてはめ
被告人は私選弁護人を選任すると回答しながら、結局自ら選任しなかったものである。原審が控訴趣意書の作成期間という訴訟上の必要性を考慮して国選弁護人を選任したことは、適切な防御の機会を確保するための措置といえる。また、記録上、原審が被告人による私選弁護人の選任を不当に妨げたような形跡は一切認められない。したがって、手続きに違法はないと評価される。
結論
原審による国選弁護人の選任は適法であり、被告人の弁護人選任権を侵害するものではない。
実務上の射程
被告人が権利を濫用して手続きを遅延させている場合や、私選選任の意思がありながら放置している場合に、裁判所が職権で国選弁護人を付すことの正当性を基礎づける際に活用できる。被告人の「選任の自由」と「実効的な弁護を受ける権利」の調整の場面で引用すべき判例である。
事件番号: 昭和27(あ)4531 / 裁判年月日: 昭和28年3月27日 / 結論: 棄却
原審における控訴趣意書提出最終日は昭和二七年七月八日であり、被告人が国選弁護人選任の請求をしたのは同年七月一〇日であつて、之に対し原審が国選弁護人を選任したのは右より約一〇日後の公判期日当日である同年七月二一日であることは所論のとおりである。そして右国選弁護人は右公判当日異議なく既に提出されてあつた被告人本人作成の控訴…