判旨
控訴審において、控訴趣意書の差出最終日の指定通知を受けた後に国選弁護人が選任された場合であっても、選任後の公判期日で当該弁護人が被告人提出の控訴趣意書に基づき弁論を行い、手続に異議を述べていない等の事情があれば、弁護人への通知を欠いたとしても違法とはいえない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書の差出最終日の通知が被告人に対してのみなされ、選任後の弁護人に対してなされていない場合や、第1回公判で初めて弁護人が選任された場合の手続の適法性(刑事訴訟法376条1項、289条1項等に関連して)。
規範
被告人に弁護人がないときに控訴趣意書の差出最終日を通知して差し支えないとした判例、および第1回公判期日において国選弁護人を選任して手続を進めることを肯定した判例の趣旨に照らし、弁護人が選任される前の手続であっても、選任後の弁護活動によって実質的な不利益が生じていない場合には、訴訟手続の法令違反には当たらない。
重要事実
控訴審裁判所は、控訴趣意書の差出最終日を昭和30年2月28日と指定し、その通知書を被告人に送達した。被告人は当該最終日に控訴趣意書を提出するとともに、国選弁護人の選任を請求した。その後、国選弁護人が選任されないまま第1回公判期日が指定されたが、当日の公判において弁護人が国選され、当該弁護人は被告人が提出済みの控訴趣意書に基づいて弁論を行った。なお、当該弁護人は一連の裁判所の処置に対して何ら異議を述べていなかった。
あてはめ
本件では、被告人自身が指定された最終日までに控訴趣意書を提出しており、期限遵守の機会は保障されていた。また、第1回公判において選任された国選弁護人は、被告人が作成した控訴趣意書の内容を前提として実質的な弁論を行っている。さらに、弁護人は選任の遅れや通知の欠如について異議を述べておらず、防御権の行使が実質的に妨げられた事実は認められない。したがって、先行する判例の枠組みに照らしても、本件の手続に破棄すべき違法はないといえる。
結論
被告人に対する通知後に選任された弁護人が、既提出の趣意書に基づき異議なく弁論した本件の手続は適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
国選弁護人が選任される前の通知手続の有効性に関する事案。実務上は、弁護人が選任された場合には改めて期間を設定し直すべきであるが、被告人自身が期限内に趣意書を提出し、かつ選任後の弁護人が追認的に弁論を行っている場合には、手続的権利の侵害はないと判断される可能性が高い。答案上は、防御権の本質的な侵害があるか否かの文脈で、実質的妥当性を考慮する際の参考となる。
事件番号: 昭和28(あ)3552 / 裁判年月日: 昭和28年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が私選弁護人を選任すると回答しながら選任しない場合、裁判所が控訴趣意書の作成期間を考慮して国選弁護人を選任することは、被告人の弁護人選任権を妨げない限り適法である。 第1 事案の概要:被告人は原審における弁護人選任照会に対し、私選弁護人を選任する(あるいは既に選任している)旨を回答していた。…