被告人が控訴趣意書最終提出日(昭和二七年一一月一〇日)の国選弁護人の選任の請求をした場合、原審が第一回公判期日当日(昭和二八年二月一七日)に至つてはじめて弁護人を国選としたとしても、その弁護人が異議なく被告人提出の控訴趣意書に基いて弁論した場合には刑訴第四一一条を適用すべきものとは認められない。
刑法四一一条にあたらない事例 ―控訴審における請求による国選弁護人選任の時期―
刑訴法411条1号,刑訴法36条
判旨
国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限直前となり、弁護人が同趣意書を提出できない状況にあっても、被告人の弁護に特段の不利益が生じず、手続上の異議もなければ、刑訴法411条の破棄事由には当たらない。
問題の所在(論点)
国選弁護人の選任が遅滞し、弁護人が控訴趣意書を作成・提出する機会を逸したことが、被告人の防御権を侵害する訴訟手続の法令違反として刑訴法411条の破棄事由に該当するか。
規範
国選弁護人の選任が遅れたことにより、弁護人が控訴趣意書を提出できなかった場合であっても、被告人の弁護について特に不利益を生じたと認められず、かつ公判手続において何ら異議が述べられていないときには、職権破棄事由(刑訴法411条)には当たらない。
重要事実
控訴審において、原審裁判所は控訴趣意書最終提出日の通知と同時に弁護人選任に関する通知を発した。被告人は提出期限当日に国選弁護人選任の請求を行ったが、その時点で選任されても期限内の趣意書提出は不可能な状況であった。その後、被告人は第1・2回公判期日に出頭せず、選任された弁護人は被告人自身が作成・提出した控訴趣意書に基づいて陳述を行い、選任の遅滞について何ら異議を述べなかった。
あてはめ
本件では、被告人が提出期限当日に選任請求をしており、仮に直ちに選任しても弁護人による趣意書提出は困難であったといえる。また、実際の公判では弁護人が被告人作成の趣意書に基づき適切に弁論を行っており、被告人の弁護について実質的な不利益が生じたとは認められない。さらに、被告人側から選任遅滞に関する異議も述べられていないことから、正当な手続への期待を著しく害するものとは解されない。
結論
被告人の弁護について特に不利益を生じたとは認められないため、刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべきものとは認められない。
実務上の射程
弁護人依頼権の侵害が争われる場面での限界事例を示す。公判審理で実質的な弁護活動が行われ、かつ手続的異議が留保されていない場合には、選任手続の形式的な遅滞のみをもって直ちに破棄事由とはならないことを示唆する。
事件番号: 昭和31(あ)3848 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることな…