控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることなく公判期日に臨み、異議を止めず被告人提出の控訴趣意書に基いて弁論をなし、そのまま結審となつたときは、右控訴審の措置を以つて、直ちに刑訴第三六条に違反し、憲法第三七条第三項後段により保障された被告人の権利の行使を妨げたということはできない。
控訴審が被告人から国選弁護人選任の請求があつたのに、その選任を遅延し控訴趣意書差出最終日経過後に国選弁護人を選任した措置が刑訴法第三六条、憲法第三七条第三項後段違反とならない事例
憲法37条,刑訴法36条,刑訴規則236条,刑訴規則238条
判旨
控訴趣意書の提出期限直前または経過後に国選弁護人が選任された場合、裁判所は提出期限の変更等の措置を講じるべきであるが、弁護人が期限延長等の請求をせず、既提出の趣意書に基づき弁論を行ったのであれば、直ちに被告人の防禦権を侵害したとはいえない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書の提出期限経過後に国選弁護人が選任された場合において、裁判所が提出期限の変更等の措置を講じず、かつ弁護人も期限延長を申し立てなかったとき、憲法37条3項後段および刑訴法36条が保障する「弁護人の援助を受ける権利」を侵害するか。
規範
裁判所が特段の理由なく、控訴趣意書の提出期限に近接して、または期限経過後に国選弁護人を選任した場合には、原則として刑訴規則236条に準じて最終日を変更するか、相当の期間内に趣意書を提出するよう促し同規則238条に従ってこれを受理するなどの措置を講じなければならない。もっとも、選任された弁護人が自ら記録を検討した結果、期限変更を請求せず、既出の趣意書等に基づいて弁論を終結した場合には、特段の事情がない限り、被告人の権利を不当に制限したとはいえない。
重要事実
必要的弁護事件の被告人が控訴趣意書の提出期限前に国選弁護人を請求したが、弁護士会の指名遅延により、期限経過後に国選弁護人が選任された。選任された弁護人は、記録を閲覧した上で期限延長の請求を行わず、第一回公判期日に出頭し、期限前に被告人本人が提出していた「量刑不当」を理由とする控訴趣意書に基づいて弁論を行い、結審した。弁護人は後に「事実関係に争いがなく、情状の補足で足りる」と判断した旨を回答している。
あてはめ
本件では、選任された弁護人が記録を閲覧し、既提出の趣意書以外に主張すべき事項がないと判断したため、期限延長等の請求をせず公判に臨んでいる。弁護人が独自の立場から格別の救済手段が不要であると判断し、現になされた防禦活動によって被告人の利益が確保されている以上、裁判所が自ら提出期限の変更や再度の提出勧告を行わなかったとしても、実質的な防禦権の侵害は認められない。また、選任が遅延した経緯も弁護士会の支障によるものであり、裁判所が故意に選任を遅滞させたものではない。
結論
本件原審の手続は刑訴法36条、憲法37条3項後段に違反せず、適法である。
実務上の射程
国選弁護人が期限後に選任された場合でも、その後の弁護活動において期限延長を求めず弁論を行った事実があれば、手続違反を主張することは困難である。答案上は、形式的な遅延だけでなく、弁護人が実質的な防禦の機会を奪われたか、あるいは弁護人自身の判断で既存の趣意書に依拠したのかという「実質的な防禦権の保障」の観点から論じる必要がある。
事件番号: 昭和34(あ)48 / 裁判年月日: 昭和34年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件において、国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後となったとしても、弁護人が期限の延長を求めず公判で弁論を行い、被告人の権利行使が実質的に妨げられていないのであれば、直ちに憲法及び刑訴法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は必要的弁護事件で起訴され、控訴審において原裁判所からの弁…