判旨
控訴審において国選弁護人が選任されないまま控訴趣意書の提出期限が経過したとしても、それが被告人の弁護人選任請求の遅滞に起因するものであるならば、被告人の弁護権を侵害した違憲・違法の事由には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人が国選弁護人の選任請求を遅滞したために、弁護人が控訴趣意書を提出できないまま期限が経過した場合、裁判所が弁護人を早期に選任しなかったことは被告人の弁護権を侵害し、憲法37条3項に違反するか。
規範
被告人が国選弁護人の選任請求権を適切に行使しなかったために、裁判所が控訴趣意書の提出期限までに弁護人を選任できなかった場合には、特段の事情がない限り、裁判所の処置に弁護権侵害の違法(憲法37条3項違反)は認められない。
重要事実
被告人は、原審(控訴審)から控訴趣意書提出最終日(昭和29年12月10日)の通知とともに弁護人選任の照会を受け、同年11月1日にこれを受領した。しかし、被告人は所定の7日以内に選任請求を行わず、提出最終日の前日である12月9日になってようやく選任請求書と控訴趣意書を原裁判所に到達させた。原審はその約2週間後に弁護人を選任したが、弁護人は控訴趣意書の提出に関与できなかった。
あてはめ
本件において、原審が控訴趣意書の提出期限までに弁護人を選任できなかったのは、一にかかって被告人が自らの権利行使(弁護人選任請求)を怠ったことに起因すると評価される。裁判所は適切に通知および照会を行っており、被告人が期限直前まで請求を遅延させた以上、裁判所に対して提出期限内に弁護人が活動できるような選任を求めることはできない。したがって、その後の弁護人選任が期限後となったとしても、手続に違憲・違法な点はないといえる。
結論
原審の手続に憲法37条3項違反の違法はなく、被告人の弁護権侵害は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、刑事訴訟における国家の弁護人提供義務の限界を、被告人の協力・権利行使の態様との相関関係で示したものである。答案上は、国選弁護人選任の遅滞が問題となる事案において、裁判所の懈怠か被告人の帰責事由かを選別する際の判断指標として活用できる。特に控訴審における防御権の保障範囲を論じる際の実務上の指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)1571 / 裁判年月日: 昭和29年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制弁護事件であっても、裁判所が弁護人選任の機会を十分に与えたのに被告人が選任請求を怠った場合、控訴趣意書提出期限後に国選弁護人を選任しても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:強制弁護事件の控訴審において、原審裁判所は被告人に対し、弁護人選任の通知書および控訴趣意書の提出期限(昭和29…