刑訴規則第二三六条第四項の規定により五月一三日を控訴趣意書提出の最終日とみなすべきところ、被告人は同年四月二七日附を以て原裁判所に対し自ら控訴趣意書を提出すると共に国選弁護人選任請求を為し右請求書は翌月四日原審に到達した。原審は同月一二日弁護士川上広蔵を被告人の国選弁護人に選定し、控訴趣意書差出最終日であるその翌日選任届を同弁護人に送達すると共に同年五月二三日同弁護人に対し同年六月一九日午前九時の公判期日通知書を送達したものである。されば、被告人の請求に基く弁護人選任は敏速を欠く嫌はあるけれども兎も角控訴趣意書差出期間内に弁護人を選任し、弁護人は自ら趣意書を提出しないで別に異議を述べることなく、弁論をしているのであるから、原審の手続には被告人の弁護権を不法に制限した違法があるとはいえない。それ故、所論は、その前提において刑訴第四〇五条に当らないし、また、同第四一一条を適用すべきものとも認めることはできない。
国選弁護人の選任が迅速を欠いた場合と弁護権の不法制限の有無
刑訴法38条,刑訴法289条2項,刑訴規則236条1項
判旨
控訴審において、控訴趣意書の提出期限直前に国選弁護人が選任された場合であっても、弁護人が自ら控訴趣意書を提出せず、異議を述べずに既提出の書面に基づき弁論したときは、弁護権の不当な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限直前となった場合に、弁護人が自ら控訴趣意書を起案・提出する時間的余裕が欠けていたとしても、被告人の弁護権を不当に制限した違法(憲法37条3項違反、刑訴法上の手続違背)といえるか。
規範
被告人の請求に基づく弁護人の選任に迅速を欠く面があったとしても、控訴趣意書提出期間内に弁護人が選任され、かつ、当該弁護人が自ら控訴趣意書を提出することなく、特段の異議を述べずに公判廷で弁論を行ったのであれば、被告人の弁護権を不法に制限した違法があるとはいえない。
重要事実
被告人は、控訴趣意書の提出期限(5月13日)の数日前である5月4日に国選弁護人の選任請求を行った。裁判所は5月12日に弁護人を選任し、期限当日である5月13日に選任届を弁護士に送達した。選任された弁護人は、自ら控訴趣意書を提出しなかったが、公判期日に出頭し、既に被告人本人が提出していた控訴趣意書に基づいて異議なく弁論を行った。
あてはめ
本件では、国選弁護人の選任が期限の1日前であり、選任届の到達が期限当日という時間的制約があった。しかし、弁護人はこれに対して期間延長の申し立てや異議を述べることなく、被告人本人が作成済みの控訴趣意書を援用して弁論を行っている。この態様に鑑みれば、実質的な弁護活動は行われており、裁判所が弁護権を不当に制限したとまでは評価できない。
結論
原審の手続に、被告人の弁護権を不当に制限した違法があるとはいえず、刑訴法411条の職権破棄事由にも当たらない。
実務上の射程
国選弁護人の選任遅延が弁護権侵害となるかの判断基準を示す。本判決は「弁護士が異議なく弁論したこと」を重視しており、弁護人が時間的余裕のなさを理由に期間延長を求めたにもかかわらず拒絶されたようなケースでは、反対に違法とされる可能性を示唆している。
事件番号: 昭和25(あ)1047 / 裁判年月日: 昭和27年11月14日 / 結論: その他
国選弁護人選任の請求に対し、控訴審において控訴趣意書最終提出日五日前にこれを選任しても、同弁護人が控訴趣意書を提出し異議なく弁論した場合は、弁護権を制限したことにならない。
事件番号: 昭和31(あ)3848 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることな…