判旨
強制弁護事件であっても、裁判所が弁護人選任の機会を十分に与えたのに被告人が選任請求を怠った場合、控訴趣意書提出期限後に国選弁護人を選任しても憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
強制弁護事件において、被告人が弁護人選任の請求を怠ったまま控訴趣意書の提出期限が経過した場合に、裁判所が期限前にあらかじめ弁護人を選任しなかったことが憲法37条3項に違反するか。
規範
憲法37条3項前段の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人にその機会を与え、行使を妨げなければ足りる。被告人がその責に帰すべき事由により、控訴趣意書の提出期間内に提出できる時期に弁護人選任の請求をしなかった場合には、裁判所が期間経過後に弁護人を選任したとしても、被告人の憲法上の権利を妨げたものとはいえない。この理は、刑事訴訟法289条の強制弁護事件であるか否かによって異ならない。
重要事実
強制弁護事件の控訴審において、原審裁判所は被告人に対し、弁護人選任の通知書および控訴趣意書の提出期限(昭和29年1月20日)の指定通知書を送達した。被告人は期限までに本人作成の控訴趣意書を提出したが、弁護人の選任については一切の請求を行わなかった。そのため、原審は提出期限経過後、強制弁護事件であることから国選弁護人を選任した。被告人側は、控訴趣意書を提出できる余裕を置いて弁護人を選任すべき義務があるとして憲法違反を主張した。
あてはめ
裁判所は被告人に対し、弁護人選任の通知および期限の指定を行うことで、弁護人を選任する機会を十分に与えている。被告人が自ら選任請求を行わなかったことは被告人の責に帰すべき事由といえる。このような状況下では、裁判所は被告人の請求がないにもかかわらず、控訴趣意書提出の余裕を置いた時期に先行して弁護人を選任すべき義務までは負わない。したがって、期限後に選任が行われたとしても、手続上の違憲は認められない。
結論
被告人に弁護人選任の機会が与えられていた以上、期限後の弁護人選任であっても憲法37条3項には違反しない。
実務上の射程
強制弁護事件における国選弁護人の選任時期と控訴趣意書の作成権限に関する限界を示す。被告人の不協力がある場合の裁判所の義務の範囲を画定する際や、効果的な弁護を受ける権利の侵害の成否を論じる際の参照となる。
事件番号: 昭和30(あ)1115 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において国選弁護人が選任されないまま控訴趣意書の提出期限が経過したとしても、それが被告人の弁護人選任請求の遅滞に起因するものであるならば、被告人の弁護権を侵害した違憲・違法の事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、原審(控訴審)から控訴趣意書提出最終日(昭和29年12月10日)の通…