原審裁判所が控訴申立事件を受理するや直ちに被告人に弁護人の選任を請求することができる旨告知せず、又被告人も亦これが請求をしないで控訴趣意提出期間を経過しその後になつて始めて被告人は右請求をなし原裁判所が弁護人を選任したため、同弁護人は控訴趣意書を提出することができなくなつたからといつて、原裁判所は、被告人に対しその弁護人に依頼する権利の行使を妨げたものではなく被告人に対しては右権利行使の機会を与えているのであるから、原裁判所の右措置は何等憲法第三七条第三項に違反するものではない。
控訴裁判所が刑訴第二七二条の告知をしなかつたため弁護人の国選がみられ控訴趣意書差出期間を経過した場合と憲法第三七条第三項
憲法37条3項,刑訴法272条,刑訴法404条,刑訴法規則177条
判旨
憲法37条3項の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人に権利行使の機会を与えその妨げをしなければ足り、国選弁護人選任請求権の告知義務までは負わない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し、国選弁護人の選任を請求できる旨を告知しなかったこと、および控訴趣意書提出期限後に選任された国選弁護人に改めて提出機会を与えなかったことが、憲法37条3項の弁護人依頼権を侵害するか。
規範
憲法37条3項にいう弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきものである。したがって、同条項は裁判所に対し、被告人に対して国選弁護人の選任を請求し得る旨を告知すべき義務を課したものではなく、裁判所は被告人に権利行使の機会を与え、その行使を妨げなければ足りる。
重要事実
被告人は一審で国選弁護人不要と答申したが、控訴後、控訴趣意書の提出期限を経過した後に貧困を理由に弁護人選任を請求した。原裁判所はこれに応じて弁護人を選任したが、選任時期が期限後であったため、当該弁護人は自ら控訴趣意書を提出できず、公判期日において被告人作成の控訴趣意書に基づき弁論を行うにとどまった。弁護人は、裁判所が直ちに国選弁護人請求の告知をせず、結果として弁護人が控訴趣意書を提出できなかったことは憲法37条3項に違反すると主張した。
あてはめ
本件において、被告人は一審で国選弁護人の選任が可能である旨の照会を受けており、権利行使の機会は与えられていた。控訴審においても、被告人は自ら控訴趣意書を提出しており、その後の期限経過後に国選弁護人の選任がなされたのは被告人自身の請求遅延によるものである。裁判所が告知義務を負わない以上、権利行使を妨げたとはいえず、また遅れて選任された弁護人に改めて提出機会を与えるべきか否かは法律上の問題であって憲法違反の問題ではない。したがって、一連の措置は憲法37条3項に違反しない。
結論
憲法37条3項には違反しない。裁判所が権利行使の機会を与え、その行使を妨げていない以上、被告人の弁護人依頼権は保障されている。
実務上の射程
憲法上の弁護人依頼権の保障範囲が「権利行使の機会の付与」にとどまり、裁判所の積極的な告知・教示義務までは含んでいないことを示す。ただし、現在の刑事訴訟法・規則上は教示義務が明文化されているため、憲法上の最低限の保障水準を示す判例として理解すべきである。
事件番号: 昭和29(あ)3473 / 裁判年月日: 昭和30年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が国選弁護人の選任請求をせず、自ら控訴趣意書を提出した場合には、提出期間経過後に国選弁護人が選任され、当該弁護人に趣意書提出の機会が与えられなかったとしても、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:原審において、控訴趣意書の提出最終日が昭和29年8月20日と指定され、即日被告人に通知…