判旨
被告人が国選弁護人の選任請求をせず、自ら控訴趣意書を提出した場合には、提出期間経過後に国選弁護人が選任され、当該弁護人に趣意書提出の機会が与えられなかったとしても、憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が国選弁護人の選任請求をせず自ら控訴趣意書を提出した事案において、提出期間経過後に選任された国選弁護人に独自の趣意書提出機会を与えなかったことが、憲法37条3項にいう被告人の弁護人依頼権を侵害するか。
規範
被告人が自ら国選弁護人の選任請求を行わない限り、裁判所が控訴趣意書の提出期間内に弁護人を選任すべき義務を負うものではない。したがって、被告人自身に趣意書提出の機会が保障されており、かつ自ら趣意書を提出している以上、事後的に選任された弁護人に独自の趣意書提出機会が与えられずとも、弁護人依頼権を保障した憲法37条3項の権利を妨げたことにはならない。
重要事実
原審において、控訴趣意書の提出最終日が昭和29年8月20日と指定され、即日被告人に通知された。被告人は提出期限まで国選弁護人の選任請求を行わず、同年8月18日に自ら控訴趣意書を提出した。提出期間経過後の9月8日に国選弁護人が選任され、第1回公判期日において当該弁護人は被告人提出の控訴趣意書に基づき弁論を行った。弁護人は、選任が遅れたことで弁護人による趣意書提出の機会が奪われたことは憲法違反であると主張した。
あてはめ
本件において被告人は、裁判所から選任に関する通知を受けていたにもかかわらず、最後まで国選弁護人の選任請求を行っていない。また、被告人自身が期限内に控訴趣意書を作成・提出しており、実質的な防御の機会は保障されている。提出期間経過後に裁判所の職権により選任された弁護人は、被告人が提出済みの趣意書に基づいて弁論を行っており、適正な手続が確保されている。自ら選任請求を怠った被告人の事情を鑑みれば、弁護人による趣意書の再提出機会を認めないことが不当な制限にあたるとはいえない。
結論
被告人の権利行使を妨げたものではなく、憲法37条3項には違反しない。
実務上の射程
控訴審における国選弁護人選任の遅滞と控訴趣意書提出義務の範囲に関する射程を示す。被告人に選任請求の機会が与えられていたこと、および被告人自らが趣意書を提出している場合には、弁護人の提出機会を別途保障しなくとも合憲とする基準として機能する。
事件番号: 昭和30(あ)1115 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において国選弁護人が選任されないまま控訴趣意書の提出期限が経過したとしても、それが被告人の弁護人選任請求の遅滞に起因するものであるならば、被告人の弁護権を侵害した違憲・違法の事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、原審(控訴審)から控訴趣意書提出最終日(昭和29年12月10日)の通…