判旨
憲法37条1項の「公平なる裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織・構成をもつ裁判所による裁判を意味する。被告人の責めに帰すべき事由により弁護人の選任が遅れた場合、控訴趣意書の提出機会が実質的に制約されても同条項及び手続上の違法はない。
問題の所在(論点)
被告人の責に帰すべき事由により弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後となった場合に、弁護人が趣意書を自ら作成・提出する機会を得られないまま審理を進めることは、憲法37条1項の「公平なる裁判所の裁判」を受ける権利の侵害、または刑事訴訟手続上の違法にあたるか。
規範
1. 憲法37条1項にいう「公平なる裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所を意味する。 2. 裁判所が故なく弁護人の選任を遅滞し、控訴趣意書を提出する機会を失わせた場合には手続的違法が生じうるが、被告人の責に帰すべき事由により適当な時期に選任請求がなされなかった場合には、選任時期が遅れたとしても違法とはならない。
重要事実
被告人は控訴趣意書の提出期限(9月27日)までに自ら趣意書を提出したが、弁護人の選任については回答を保留した。期限経過後の10月4日に私選弁護人選任の意向を示すも、公判期日の延期・変更を繰り返しても選任しなかった。翌年1月27日に至り「家庭の都合」で国選弁護人を請求したため、裁判所は2月2日に選任。翌日の公判で当該弁護人は異議なく立会い、既提出の趣意書に基づき弁論して結審した。弁護人は、作成の時間的余裕がないまま結審したのは憲法37条1項等に反すると主張した。
あてはめ
本件では、裁判所は期限内に通知を行い、被告人も自ら趣意書を提出している。その後、被告人は弁護人選任のための延期申請等を行いながら長期間選任を怠り、最終的に自らの都合で国選弁護人を請求したものである。裁判所が故なく選任を遅滞させた事実はなく、むしろ被告人の責に帰すべき事由により選任が遅れたといえる。選任された弁護人も異議なく立会い、既出の趣意書に基づき弁論を行っていることから、防御権の不当な制限とは評価されない。
結論
被告人の責に帰すべき事由により弁護人の選任が遅れた場合、選任の翌日に結審したとしても憲法37条1項等に違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
被告人の権利行使の懈怠がある場合にまで、裁判所に手続の遅延ややり直しを強制するものではないことを示す射程を持つ。答案上は、弁護人の効果的な援助を受ける権利(憲法37条3項)や正当な手続(31条)との関連で、被告人側の帰責性の有無を検討する際の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)1571 / 裁判年月日: 昭和29年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制弁護事件であっても、裁判所が弁護人選任の機会を十分に与えたのに被告人が選任請求を怠った場合、控訴趣意書提出期限後に国選弁護人を選任しても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:強制弁護事件の控訴審において、原審裁判所は被告人に対し、弁護人選任の通知書および控訴趣意書の提出期限(昭和29…